


森のトロール
北欧伝承で山野に棲む怪物トロールは、ゴブリン的な存在。
いたずらや人間への脅威の象徴として描かれる。
出典:『Theodor Kittelsen - Skogtroll, 1906 (Forest Troll)』-Photo by Theodor Kittelsen/Wikimedia Commons Public domain
暗い森の奥、岩の裂け目、小さな洞くつ…。北欧神話や民間伝承には、そういった場所に住み着く不思議でちょっと不気味な存在がたくさん登場します。しかも彼ら、人間に悪さをすることもあれば、意外と役に立つこともあるというから、単純な「悪者」とは言い切れないのがまた魅力なんですよね。
今回ご紹介するのは、いわゆる「ゴブリン」っぽいキャラたち。もちろん“ゴブリン”という言葉はケルトや中欧の伝承で使われることが多いですが、北欧にはそれに相当する存在がいくつか存在します。
本節ではこの「北欧神話のゴブリン的キャラ」というテーマを、森にひそむ巨人の末裔・金属を操る地下の住人・そしていたずら好きの小人たちという3つの視点から、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!
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まず紹介したいのが、北欧でよく語られる「ゴブリン的キャラ」の代表格、トロール(Troll)です。
トロールはもともと神話に登場する巨人族(ヨトゥン)の一種とされますが、時代が下るにつれて、森や洞くつに住むちょっと小さめで粗暴な存在として民間伝承の中に登場するようになりました。
見た目は人間に似ているけれど、どこか不格好で、性格は粗野。でも、強い力を持っていたり、魔法を使ったりすることもあるから侮れません。
トロールは特に森や山の中にひそむ存在として描かれることが多く、夜になると村に降りてきて家畜を盗んだり、人間の子どもをさらったりする話も伝わっています。
でも一方で、トロールが“石に変わる”という有名な特徴もあるんです。日光に当たると石になってしまうため、昼間は活動できないという設定が多く、それがちょっと切なくてユーモラスな印象にもつながっています。
次に紹介するのは、北欧神話における地下の小人族「ドワーフ(Dvergr)」。英語では“ドワーフ”としてよく知られていますね。
彼らはゴブリンよりもやや知的で職人的なイメージがありますが、小柄で陰にひそむような存在であり、人間に対してときに敵意をむき出しにすることもあるという点で、まさに“ゴブリン的”と言える存在です。
北欧神話においては、あのミョルニル(トールのハンマー)やグングニル(オーディンの槍)を作ったのもこのドワーフたちなんですよ!
ドワーフの面白いところは、「技術は一流だけど、性格がすこぶる面倒くさい」という点。
例えば、ロキが彼らに宝物づくりを依頼したとき、出来栄えをめぐって賭けをしていたロキが言い逃れをしようとした結果、激怒したドワーフたちに命を狙われる羽目に。
最終的にはロキは「首ではなく唇だけならよい」という言い訳をすることで逃れますが、怒ったドワーフに唇を縫われてしまうのです。
こうした自尊心が強くて短気な性格も、ゴブリンに通じる部分があると思いませんか?
最後に紹介するのは、ちょっと愛嬌のある「小人」キャラ、ニッセ(Nisse)です。
ニッセは北欧の農家に住みつく妖精のような存在で、身長は子どもほど。赤い帽子に白い髭、小さな体で家畜の世話をしたり、農作物を見守ったりしてくれる、いわば“家の守り神”です。
…が、忘れてはいけないのが彼らのいたずら好きな性格。
ニッセには人間に対して親しみを持って接してくれる一面もありますが、粗末に扱ったり、プレゼント(特にバター付きのおかゆ)を忘れたりすると怒るんです。
怒ったニッセは、農具を壊したり、牛を逃がしたり、ひどいときには人間を森に迷わせることすらあります。
この「助けてくれるけど信頼を裏切ると怖い」という性質は、まさに“ゴブリン的キャラ”としてぴったりなんですよね。
というわけで、北欧世界の「ゴブリン的キャラ」たちは、それぞれ違った個性を持ちながらも、人間と近い場所にいて、ちょっと不気味で、でも魅力的な存在ばかりでした。
森のトロール、地下のドワーフ、そして家を見守るニッセ──彼らは自然と人間社会の“すきま”に存在するキャラクターであり、だからこそ、昔から語り継がれ、今も愛されているのだと思います。
見えないけれど、どこかにいるかもしれない。そんな気配を感じさせる彼らの存在って、本当にワクワクしますよね!
🌲オーディンの格言🌲
岩の裂け目や森の影──そこにひそむ者たちは、ただの化け物ではない。
トロールもベルグスローも、「自然そのものが持つ意思」として、この世の端に息づいておる。
異界の住人は、人の理では測れぬ時を生き、人の声では語らぬ真理を映す。
日が昇れば石となるその身は、「光」より「闇」にこそ真実があることを示す証。
わしら神々すら、彼らとは軽々に相対せぬ──それほどに深く、古き力なのじゃ。
忘れるでないぞ。森の奥には、もうひとつの世界が脈づいておるのじゃからな。
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