


森に潜むトロール(ノルウェーの民間伝承)
ノルウェー各地の昔話に登場するトロールを描いた場面。
山や森に棲む巨大で不気味な存在として語られる。
出典:『Skogtroll』-Photo by Theodor Kittelsen/Wikimedia Commons Public domain
深い森と切り立った山、静かに広がるフィヨルド──そんな雄大な風景の中で、巨大なトロールが岩の陰に隠れていたり、夜のあいだに山を歩き回っていたり…。ノルウェーでは今も、人々の暮らしのすぐそばに不思議な物語が息づいているんです。
特に有名なのが「トロール」という存在。北欧神話にも登場する彼らは、ノルウェーの民話の中で、ちょっと怖くて、でもどこか愛嬌のあるキャラクターとして語られています。
本節ではこの「ノルウェーの民間伝承」というテーマを、風土と暮らし・語り継がれる民話・神話とつながる土地──という3つの視点に分けて、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!
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ノルウェーは、北欧の中でも特に自然が厳しくも美しい国です。氷河が削ったフィヨルドや、針葉樹の森、雪に覆われる山々──こうした風景が、昔から人々の暮らしと想像力を育んできました。
季節の移り変わりがはっきりしていて、特に冬はとても長く暗い。だからこそ、人々は火を囲んで物語を語り、自然の中に“なにかがいる”という感覚を大事にしてきたのです。
ノルウェーの伝承では、山や森、湖に「目に見えない存在が住んでいる」という考え方が当たり前のようにあります。これは単に空想ではなく、自然をおそれ、敬い、共に生きる知恵ともいえるんですね。
だからこそ、「神話」と「暮らし」はこの国では切り離せないほど密接に結びついているんです。
ノルウェーの伝承の中で、圧倒的な存在感を放つのが「トロール」。彼らは巨大でちょっと間抜けだけど、ときに人間に災いをもたらす存在として、何世代にもわたって語り継がれてきました。
昼間に太陽の光を浴びると石になってしまうため、いつも暗い森や洞窟の中にひっそりと棲んでいる──そんなお話もよく出てきます。
トロールって、たしかにちょっと怖い。でも、それと同時にどこか「人間っぽい弱さ」や「かわいらしさ」も持っているんです。
たとえば、勇敢な農夫の息子が知恵を使ってトロールを出し抜く話や、トロールの娘が人間に恋をしてしまう物語など、「ただの怪物」では終わらない豊かな描写があるのが特徴です。
昔話の中では、知恵や勇気、時にはユーモアがトロールを退ける手段として描かれ、それがまた子どもたちに大切なことを伝える手段になっていたんですね。
ノルウェーには、トロールにまつわる地名や景勝地が本当にたくさんあります。
「トロールの舌(Trolltunga)」と呼ばれる断崖絶壁や、「トロールの壁(Trollveggen)」という垂直にそびえる岩壁などは、実際にトロールがそこにいた、あるいは石になったという伝説が残る場所です。
こうした地名を見るたびに、「ああ、ここはただの山じゃない。昔トロールがいた場所なんだ」と想像がふくらむんです。
観光ガイドでも、これらの場所には「神話ゆかりの地」として説明が付けられていたり、地元の人が語る昔話が紹介されていたりして、物語が今も生きていることが感じられます。
土地の形、自然の力、それに人間の想像力が合わさって、「ここに物語があった」と思わせてくれる──それがノルウェーという国の魅力なのかもしれません。
というわけで、ノルウェーの民間伝承には、自然への畏敬と、想像の力で紡がれた物語がたっぷりと詰まっていました。
トロールはただの怪物ではなく、人間と同じように弱さや感情をもった存在として描かれ、人々の想像力のなかで生き続けています。
そして今もなお、神話は地名や風景の中に残り、人々の心の中で静かに語りかけてくるんです。もしノルウェーを旅する機会があれば、ぜひ「ここにトロールがいたかも」と想像しながら、山道を歩いてみてください。
きっと、物語の世界に一歩、足を踏み入れたような気分になれるはずです。
🌲オーディンの格言🌲
おぬしら、森を歩くとき──その静寂の奥に、何かの気配を感じたことはないか?
ノルウェーの山々には、古の昔よりトロールというものが棲んでおる。
光を避け、石と化す運命にありながら、なお自然と共に生きる存在じゃ。
それは脅威であると同時に、畏れと敬いの象徴でもある。
わしら神々の物語が空を駆けるならば、トロールの物語は大地に根を張る。
伝承とは、語る者の心に応じて形を変え、永く生きるものなのじゃ──。
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