


スノッリ・ストゥルルソン(1179 - 1241)
『北欧神話』の基礎資料とされる散文のエッダや『ヘイムスクリングラ』の編者として知られる学者
出典:『Snorre Sturluson-Christian Krohg』-Photo by Christian Krohg/Wikimedia Commons Public domain
「オーディンってなんで片目なの?」「トールのハンマーって、なんでそんなに強いの?」──そんな疑問、抱いたことはありませんか?
巨人族との戦いや、ロキのいたずら、神々の最後を描いたラグナロクなど、北欧神話には思わず引き込まれる話がたくさんありますよね。でもふと立ち止まって、「この壮大な神話、一体だれが作ったの?」と不思議に思ったことはないでしょうか?
これはですね…じつは、北欧神話には小説やマンガのように「はっきりとした作者」はいません。それでも、神話を今のかたちで私たちに届けてくれた人たちはちゃんといるんです。
というわけで、本節ではこの「北欧神話の作者とは誰か」というテーマについて、神話の原点にある古代ゲルマン人・記録者スノッリ・ストゥルルソン・そして無数の語り手たち──という3つの視点から、楽しく紐解いていきましょう!
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北欧神話のルーツをさかのぼると、そこには古代ゲルマン人という民族の存在があります。
ゲルマン人というのは、ローマ帝国より北に住んでいた、いろいろな部族のこと。彼らの間で、神話や伝説が語り継がれていたんです。
もちろん、その当時は文字で書き残す文化が広まっていなかったので、話はすべて「口伝え」。
つまり、おじいちゃんや吟遊詩人が、火を囲んで次の世代に物語を語って聞かせていたんですね。
彼らの神話には、雪や氷、嵐、森といった自然の力がたくさん登場します。それは、彼らの暮らしが自然と切っても切り離せないものだったから。
たとえば、雷神トールの存在は、雷という恐ろしい自然の力を神さまとして受け止めようとした気持ちの表れかもしれません。
物語の細かい内容は、時代や地域ごとに変わることもありました。
でも、それはむしろ当たり前。何世代にもわたって語られてきた“みんなの物語”だからこそ、少しずつ変化しながら、今の形になっていったのです。
この“口伝えの物語”を、書き残してくれた人物がいます。
その名はスノッリ・ストゥルルソン(1179 - 1241)。アイスランドの政治家であり詩人でもあった彼は、中世の重要な文化人でした。
彼が書いた『スノッリのエッダ』は、北欧神話をまとめた最も有名な本のひとつ。そこには、オーディンやフレイヤ、ロキ、そしてラグナロクの話などがしっかりと記録されています。
ちょっと不思議なのが、スノッリ自身はキリスト教徒だったということ。一神教のキリスト教では、他の神々の存在を認めないはずなのに、なぜ異教の神話をわざわざ書き残したのでしょうか?
これは、当時のアイスランドにおいて、古い信仰や文化がどんどん失われていくなか、「このままではいけない!」という気持ちがあったからだと考えられています。
スノッリにとって、神話は信仰というより「文化遺産」。だからこそ、物語を詩の形式で整理し、後の世代に受け継ごうとしたのです。
最後に触れたいのが、歴史に名を残さなかったけれど、北欧神話を作り上げた本当の“作者”たち──それは名もなき語り手たちです。
スノッリは記録者ですが、彼がまとめた内容は、すでに人々の間で長いあいだ語られていた話なんです。だから、実際に神話を“作った”のは、何百年も前から語り続けてきた人々。
おばあちゃんが孫に話して聞かせたような、そんな日常の中で、神話は生まれ、形を変えて、今まで残ってきたんです。
これはとっても大切なことですが、神話って、ひとりの天才が考えたストーリーじゃないんです。
その時代に生きた人たちが、大切にしていた価値観や自然とのつながり、不思議に思ったことや、怖いものへの気持ち──そういった感情や考えを、語りながら少しずつ織り込んでいったもの。それをみんなで守り、つないできたからこそ、今もこうして読めるんですね。
だからこそ、「北欧神話の作者って誰?」という問いに対する答えは、「全ての語り手たちこそが作者だった」ということになるのかもしれません。
というわけで、北欧神話には、物語を書いた「作者」はいません。
でも、最初に語りはじめた古代ゲルマン人たち、物語を文字に残したスノッリ・ストゥルルソン、そして何世代にもわたって語り継いできた無数の人々がいました。
神話は、そんな人たちの思いや暮らし、自然へのまなざしが少しずつ積み重なってできたもの。だからこそ、「誰が作ったの?」という問いへの答えは、「みんなで作ってきた」なんですね。
一つの答えがないのが答えっていうのが、逆にすごく素敵なことだと思いませんか?
📜オーディンの格言📜
わしらの血脈が語る伝承も、語る者が絶えれば風とともに散ってゆく。
されど、ある時代において──記すことを選んだ者がおった。
その名はスノッリ・ストゥルルソン。キリストを信じながらも、わしらの声を聞き届けた男じゃ。
「物語を創る」のではなく「記憶を紡ぐ」ことこそ、真の勇気と言えよう。
わしらの時代の言葉は、ただ信仰としてではなく、文化として息づく。
詩となり、物語となり、やがて未来のそなたの心に火を灯す。
語る者と記す者──どちらが欠けても、世界樹の記録は途切れてしまうのじゃ。
ゆえに、今こうして読むそなたもまた、わしらの物語の継承者の一人なのじゃぞ。
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