


オーディンたちがユミルの身体から世界を創造する場面
北欧神話の世界の起源を描いた挿絵。
神々が巨人ユミルの身体を材料に天地を形づくる瞬間。
出典:『Odin and his brothers create the world』-Photo by Lorenz Frolich/Wikimedia Commons Public domain
トールやロキ、オーディンといった神々の物語って、最初に出会ったときからワクワクしますよね。
神々と巨人が戦ったり、未来が決まっていたり、世界が9つに分かれていたり──いったい誰がこんな不思議な物語を考えたのか、気になりませんか?
実は北欧神話は、ゲルマン民族やヴァイキングたちの間で、長い年月をかけて語り継がれたお話なんです。
そしてそれが『エッダ』という本にまとめられたことで、今の私たちが読めるようになったんですよ。
というわけで、本節では「北欧神話の起源」について、ゲルマン人の口承文化・ヴァイキングによる広がり・『エッダ』による記録という3つの視点から、お話していきます!
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北欧神話のいちばん古い形は、文字ではなく口で語られていたとされています。
ヨーロッパの北のほうに住んでいたゲルマン民族は、長い冬の夜に火を囲んで、神々の冒険や世界の始まりについて語るのが大好きだったんです。
書き残すよりも、誰かが誰かに話して聞かせる──そんなやり方で、神話は世代から世代へと伝えられてきたんですね。
この口承文化がなければ、今の北欧神話は存在していなかったかもしれません。
しかも、語り手によって少しずつ話の内容が変わったり、新しい登場人物が加わったりして、どんどんお話がふくらんでいったんですよ。
だからこそ、北欧神話ってどこか“生きてる”感じがするんです。
ゲルマン民族の中でも、とくに海を越えて各地に出かけたのがヴァイキングたちです。
8世紀ごろから活発に活動して、ヨーロッパ各地に進出した彼らは、戦士であり、探検家であり、交易者でもありました。
でもそれだけじゃなく、彼らは神話の語り手でもあったんです。
ヴァイキングたちは、遠くイングランドやフランス、さらにはロシアにまで進出しました。
そのなかで、彼らの神話もいっしょに運ばれていったわけです。
剣を手に戦うトールの話や、狡猾なロキの冒険譚は、ヴァイキングたちの生きざまと重なる部分も多くて、とても説得力があったんでしょうね。
神話と現実が入り混じるような世界観は、ヴァイキングたちの日々の暮らしや信念をしっかり支えていたんです。
時代が進むと、文字が使われるようになり、「口で語る」神話が「本に書かれる」ようになります。
このとき誕生したのが、北欧神話のバイブルとも言える『エッダ』です。
この『エッダ』には2つあって、ひとつは詩のかたちで物語を伝える『古エッダ』。
もうひとつはスノッリ・ストゥルルソン(1179 - 1241)というアイスランドの歴史家が書いた『スノッリのエッダ』です。
この『スノッリのエッダ』がなければ、私たちは今、北欧神話を詳しく知ることができなかったかもしれません。
スノッリはキリスト教徒でしたが、古くから伝わる神話や文化を大切に思って、丁寧にまとめてくれたんです。
神話の書き手ではなく、聞き手・まとめ役としてのスノッリの存在。 「誰かが伝えようとしてくれた」からこそ、北欧神話は今もこうして読まれているんですね。
🌳オーディンの格言🌳
世界とは、初めから形を持っておったわけではない。
混沌より生まれしユミル、その身を割きて我らが天地を築いた。
だが、「物語」の誕生はさらに深きところに根ざしておる。
語り継ぐ者がいたからこそ、我らの記憶は時を越え、名も知らぬ者の心に火を灯すのじゃ。
焚火のそばで紡がれた言葉、海を越えて運ばれた信仰、そして頁に刻まれた記憶──
それらすべてが「我らが物語」を未来へとつなぐ橋となった。
忘れてはならぬ。神も人も、聞く耳を持ち、語る心を持つことで「世界」をつくっておるのじゃ。
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