


玉座に座す女神フリッグ
結婚と母性を司る主神妃で、家庭と王権の威光を体現する存在。ギリシャ神話のヘラに相当する女神。
出典:『Frigga』-Photo by Johannes Gehrts/Wikimedia Commons Public domain
神々の女王──この言葉がもっともふさわしいのが、ギリシャ神話のヘラです。
彼女はゼウスの正妻として、天上の秩序と結婚の神聖を守る存在であり、威厳と誇りをその身に宿した女神でした。
一方、北欧神話にもオーディンの妻であり、神々の母として知られるフリッグという存在がいます。
「家庭」や「母性」だけでなく、知恵と威厳を備えたその姿は、まさに北欧神話における“女王”にふさわしい存在。
両者を比べてみると、共通点も多い一方で、神としての描かれ方や行動の軸には驚くほどの違いが見えてきます。
というわけで本節では、「北欧神話のヘラは誰?」というテーマから出発して、ヘラの特徴・フリッグとの共通点・そして決定的な違いという3つの切り口で、ふたりの女神の本質に迫っていきましょう!
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ギリシャ神話に登場するヘラは、ゼウスの正妻であり、結婚・出産・家庭・嫉妬などを司る女神です。
ゼウスの兄弟であるクロノスとレアの娘として生まれ、オリュンポス十二神のなかでも最上位の地位に立つ存在とされてきました。
しかし、夫ゼウスが多くの浮気を繰り返すため、ヘラの神話はしばしば嫉妬と怒りを軸に展開していきます。
ヘラは単なる嫉妬深い妻というだけではなく、神々の秩序や正当な結婚の価値を守るために戦う女神でもあります。
しばしばゼウスの行動に異議を唱え、時には神々の会議を主導することすらあります。
「誇り高い王妃」としての女神像が、ヘラの神性の中心にあるといえるでしょう。
北欧神話のフリッグもまた、神々の王オーディンの正妃であり、「神々の母」と称される存在です。
彼女は家庭、結婚、母性、予知などを司るとされ、アースガルズにおける女神たちの中で最も高い地位を持っています。
フリッグは多くを語らずとも、その存在だけで周囲を静かに統率するような、包容力と威厳を備えた神格です。
たとえば、息子バルドルの死を予知して世界中の存在に誓いを立てさせたエピソードなど、母としての愛と、世界を守る使命感をあわせ持っていることがよくわかります。
王の妃であり、神々を導く存在であること──その立場は、まさにヘラと重なる部分です。
ヘラとフリッグの最も大きな違いは、感情の表し方と神話における行動のスタイルです。
ヘラは、ゼウスの裏切りに激しく怒り、相手に制裁を加える神話が数多く残されています。
一方、フリッグは感情を露わにする場面がほとんどなく、たとえ深い悲しみを抱えていても、それを行動や怒りとして表すことはめったにありません。
フリッグには「予知の力」があるとされながらも、その知識を周囲に語ることはせず、静かに見守るという姿勢が印象的です。
これは、ゼウスの行動をめぐって常に動き、語り、介入するヘラとはまったく対照的です。
つまり、ヘラは「秩序を守るために声をあげる女王」、フリッグは「未来を知りながら見守る女王」と言えるかもしれません。
どちらも神々の母であり、女神たちの中心に立つ存在ですが、その王妃としての気高さの“温度”はまったく異なる。
それが、ふたりの女神の奥深さと、それぞれの神話世界の美しさを引き立てているのです。
👑オーディンの格言👑
わしの隣に座す者──それがフリッグじゃ。
神々の母として、多くを見通しながらも、あやつは決して語らぬ。
怒ることも、奪うこともせず、ただ静かに“真実”を抱きしめる。
「王に雷があれば、女王には沈黙の叡智がある」。
ヘラが声を荒げるなら、フリッグはまなざしひとつで語るのじゃ。
あやつが家にいるだけで、神々の暮らしは安らぎ、運命の流れも穏やかになる。
その姿は、玉座よりも深き「支え」として、わしらの物語の中に根ざしておるのじゃ。
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