


北欧神話の戦士シグルド
竜ファフニールを槍で貫く決定的瞬間を描いた挿絵。
英雄譚ヴォルスンガ・サガのクライマックスに当たる場面。
出典:『Sigurd kills Fafnir by Rackham』-Photo by Arthur Rackham/Wikimedia Commons Public domain
竜退治で名をはせたシグルドや、戦場で選ばれた勇ましいエインヘリャル、そして神々に仕える空を舞うワルキューレなど、北欧神話には思わず胸が熱くなる“戦士”たちがたくさん登場しますよね。
でも、「戦士っていっても種類いろいろあるけど、何がどう違うの?」と疑問に感じる瞬間もあるはずです?
実は北欧神話の戦士たちは、ただ強いだけではなく、それぞれが“運命”“死”“勇気”と深く結びついていて、その背景を知ると物語がぐっと生き生きしてくるんです。
本節ではこの「戦士」というテーマを、シグルド・エインヘリャル・ワルキューレ──という3つの視点に分けて、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!
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北欧神話でも指折りの英雄として語られるのが、勇敢な戦士シグルドです。
彼は『ヴェルズンガ・サガ』や『エッダ詩』に登場し、なんと言っても邪竜ファフニールを倒した物語が有名なんですね。
シグルドは鍛冶師レギンに育てられ、魔剣グラムを手に竜退治へ向かいます。
この魔剣がまたすごくて、まるで鉄をバターみたいに切り裂くほどの鋭さを持っていたと語られています。
竜の血を浴びて鳥の声が理解できるようになったり、裏切りや運命のままに進むドラマが次々とシグルドをのみ込み、読んでいる側まで息が止まりそうになるんです。
ここが北欧神話の面白いところで、シグルドは恐ろしい竜を倒したにもかかわらず、最終的には裏切りによって命を落とす悲劇の英雄なんです。
北欧の人々は「偉大な勇者は、時に悲しい運命を背負う」という感覚をとても大事にしていたんですね。
シグルドの物語は、勇気と悲劇が入り混じりながら進む“北欧らしさ”を象徴していて、戦士という存在が単なる強さだけではなく、運命に立ち向かう心そのものだったということがよく分かるんです。
さて、次に紹介したいのが戦場で倒れた戦士の魂──それがエインヘリャルです。
彼らはただの亡霊ではありません。死後、ワルキューレによって選ばれると、なんとオーディンの館ヴァルハラへと迎え入れられます。
ヴァルハラに集まったエインヘリャルは、毎日激しい戦闘訓練を行い、夕方には不思議なことに全員が回復して祝宴を楽しむ、というサイクルを繰り返します。
ちょっと驚く設定ですが、戦士の世界としてはなんだかワクワクする場所ですよね。
とはいえ、この訓練には明確な目的があります。
エインヘリャルは、世界の終末ラグナロクでオーディンたちと共に戦うために鍛えられているのです。
つまり彼らは、死んで終わるどころか、死後の世界でさらに“戦士としての使命”を果たし続ける存在なんですね。
この発想が実に北欧らしくて、戦士にとって名誉とは、生きている間だけのものじゃなく、死後にも続く長い旅のように思われていたんです。
こう考えると、戦士という存在がどれほど大きな意味をもっていたか、じんわり伝わってきますよ。
最後に欠かせないのが、戦場を駆ける女性たちワルキューレです。
彼女たちはオーディンに仕える存在で、戦場で命を落とした戦士の中から、誰をエインヘリャルとしてヴァルハラへ連れていくかを選ぶ役割を持っています。
ワルキューレというと、翼を広げて空を飛ぶ姿をイメージする人も多いかもしれませんが、古代の伝承では“戦場に現れる光の乙女”として描かれ、戦士たちにとっては畏れと憧れが入り混じった存在でした。
ワルキューレはただ戦士を運ぶだけの存在ではなく、ときに“どの側が勝つか”にも影響すると信じられていました。
つまり戦士と運命のあいだを取り持つ、特別な存在だったわけです。
実はワルキューレは、神話だけでなく後の詩や民間伝承にも繰り返し登場し、時代を経るごとにしなやかさと強さを併せもつ象徴として形を変えていきました。
彼女たちが登場すると物語の空気がすっと引き締まり、“北欧神話らしさ”が一気に濃くなるんです。
というわけで、北欧神話の戦士たちは、竜退治の英雄シグルド、死後も戦うエインヘリャル、そして戦士を選ぶ天空の乙女ワルキューレという、3つの姿で語られてきました。
それぞれが違う立場ながら、運命や勇気、名誉といった共通のテーマを大切にしているのがとても興味深いところです。
戦士とは、ただ強いだけの存在ではなく、「どう生きて、どう死んで、どう語り継がれるか」という北欧の人々の価値観そのものを映し出す鏡のような存在──そんなふうに感じられるわけなんですね。
物語を読むたびに、彼らの息づかいがすぐ近くで聞こえてくるような気がします。
⚔オーディンの格言⚔
竜を討った勇子シグルドも、わしが呼び集めたエインヘリャルも、空を駆けるワルキューレも──皆、九つの世界に刻まれた「運命の糸」で結ばれておる。
彼らの差異を知ることは、戦の本質が単なる武の比べではなく、魂の在り方そのものに宿ると気づく道なのじゃ。
強さとは“生ききる意志”と“死を超えて響く名”が織りなすものにほかならぬ。
シグルドの悲劇に、わしは若き勇のまぶしさと脆さを思い出す。
エインヘリャルには、終わりなき訓練の果てに世界を守る覚悟が息づく。
ワルキューレは運命を告げる風として、わしの思惑を静かに運んでくれる頼もしき娘らよ。
戦士とは時代を超えて人の心を照らす鏡──その物語は、今もなお新たな勇を呼び覚ますのじゃ。
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