北欧神話の「魔法使い、魔術師」といえば?

北欧神話の「魔法使い」とは

北欧神話における魔法使いは、セイズを操るフレイヤ・知を求め禁忌へ踏み込むオーディン・未来を告げるヴォルヴァという三者が中心となる。彼らは運命と深く結びついた術を扱い、その力は自然や心の働きにも及ぶ。こうした魔法使いたちの在り方は、北欧世界で魔法が生活と運命を貫く知として受け継がれた証といえる。

運命と死を操る魔術師たち北欧神話の「魔法使い」を知る

オーディンとヴォルヴァ(予言する女の魔術師)の対話

オーディンとヴォルヴァの対話
北欧神話における魔術師の象徴であるヴォルヴァが予言を告げ、
オーディンが知を求めて対話する場面。

出典:『Odin og Volven』-Photo by Lorenz Frolich/Wikimedia Commons Public domain


 


愛と戦の女神フレイヤが操る強力な魔法や、知識を求めて禁断の術に踏み込んだオーディン、そして未来を語る不思議な巫女ヴォルヴァなど、北欧神話には“魔法使い”と呼びたくなる存在がいくつも登場しますよね。
でも、「魔法って誰が使えたの?どんな力なの?」と気になる場面もあるはずです?


実は北欧神話における魔法は、とても生活や運命に近いもので、神々だけでなく人間世界にも深くかかわっていたんです。


本節ではこの「魔法使い」というテーマを、フレイヤ・オーディン・ヴォルヴァ──という3つの視点に分けて、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!



フレイヤ──セイズを操る北欧最強の魔女神

北欧神話でまず“魔法”と聞いて思い浮かぶのが、美しくて力強いヴァン神族の女神フレイヤです。
彼女は愛や豊穣の神として有名ですが、実はセイズ(魔術)の最高の使い手でもあり、神々の世界で最も強力な魔法使いとして語られています。


フレイヤが使うセイズは、自然の力を揺り動かしたり、人々の心を操ったり、未来をのぞくような不思議なもの。
その力はあまりに強大で、アース神族が「これは学ばねば!」と興味を示すほどでした。


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女神が神々に教えた魔法

フレイヤはアース神族にセイズを教えたとされていて、
北欧世界における“魔法文化の源”とも言える存在なんですね


とはいえ、セイズはとても繊細な魔法で、使いこなすには精神的な覚悟が必要だったようです。
フレイヤが持つ“柔らかさと強さの両方”が、魔法使いとしての彼女をより特別な存在にしているんです。
その姿を知ると、魔法がただの力ではなく「心とも深く結びついた術」だったことがよく見えてきます。


❄️フレイヤの関係者一覧❄️
  • フレイ:フレイヤの双子の兄で、ヴァン神族に属する豊穣と平和を司る神。両者はしばしばセットで語られ、神族間の調和を象徴する存在となる。
  • オーズ:フレイヤの夫とされる人物で、長く旅に出て戻らないため、フレイヤが涙を流して嘆く逸話が伝わる。オーディンとの同一視を示唆する説も存在する。
  • ニョルズ:フレイヤの父とされる海と豊饒の神で、ヴァン神族の長的存在。アース神族との人質交換でアースガルズへ移住した背景をもつ。
  • ロキ:フレイヤに関する複数の物語に登場し、ときに彼女を嘲弄し、ときに事件に巻き込む存在。ブリーシンガメンの奪取事件では中心的な役割を果たす。


オーディン──知識のためなら何でもする魔法の王

次に語らずにはいられないのが、アース神族の主神オーディンです。
彼は戦と知識の神でありながら、フレイヤに学んだセイズを自身でも使う“不思議な魔法王”でもあるんです。


オーディンは欲しい知識のためにはどんな犠牲もいとわず、
世界樹ユグドラシルに自らを吊り下げ、ルーン(神秘の文字)の真理を手に入れたという話が有名ですよね。
その探求心は魔法使いそのもので、読んでいて「ここまでやるか…!」と驚いてしまうほどなんです。


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オーディンとヴォルヴァの対話

オーディンが魔法の深みに踏み込む象徴として有名なのが、
『巫女の予言』に描かれた、死者となった巫女ヴォルヴァを呼び起こして対話する場面です。


このエピソードでは、オーディンが戦と魔法の力を使い、眠りについたヴォルヴァを強引に呼び戻し、世界の始まりから終わりまでの秘密を聞き出そうとします。
ヴォルヴァはしぶしぶ語り始めますが、やがて彼の正体を見抜き、「あなたが求める知識はあなた自身の滅びへつながる」と告げるんです。


このやり取りは、オーディンの魔法への執念と、未来を知ることの“怖さ”が重なった北欧神話らしい名場面なんです。
魔法とは、ただの力ではなく、運命そのものをのぞき込む危険な行為でもあったわけですね。


オーディンの関係者一覧❄️
  • フレイヤ:セイズ(呪術)の主要な継承者であり、オーディンにこの技法を教えたとされる。オーディンの魔術的能力の源泉に直接関与する存在となる。
  • フリッグ:予知や運命感知に長けた女神で、オーディンと知識・魔術の領域でしばしば交差する。両者は神界における叡智の象徴的夫妻として位置づけられる。
  • ミーミル:知識の泉の守護者で、オーディンは片目を犠牲にしてその泉の知恵を得た。オーディンの魔術的知識体系に決定的影響を与える存在となる。
  • フギンとムニン:オーディンの鴉で、思考と記憶を象徴する。世界を飛び回って得た情報を持ち帰り、オーディンの呪術的洞察を支える役割を果たす。


ヴォルヴァ──未来を語る北欧の巫女

そして北欧世界で忘れてはいけない魔法使いがヴォルヴァと呼ばれる人間の女性呪術者・巫女たちです。
彼女たちは主にセイズを操り、未来を読み、運命を語り、人々に助言を与える存在として尊敬と畏怖の目で見られていました。


ヴォルヴァは杖を手にし、特別な衣をまとい、しばしば村々を巡って占いを行ったと言われています。
その姿はどこか“旅する魔女”のようで、神々の物語だけでなく、人間の生活にも深くかかわっていたんですね。


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運命を語る者の責任

ヴォルヴァが語る未来はときに厳しく、ときに優しく、
聞いた者の人生を大きく変えるほどの重さがあったと伝えられています。


なかでも、オーディンとの対話に登場したヴォルヴァは“すでに死者となった巫女”でありながら、なお強い力を保持している点が印象的です。
運命を知る者は、死を越えてもその力を失わない──そんな北欧的な価値観がにじみ出ているんです。


ヴォルヴァという存在を知ると、魔法が単なる“技”ではなく、過去と未来を結ぶ大切な文化だったことが実感できます。


❄️ヴォルヴァの関係者一覧❄️
  • フレイヤ:セイズの主要な担い手であり、ヴォルヴァたちの魔術体系の源流ともされる女神。呪術と予言に関する神秘的伝統を支える。
  • オーディン:死者や予言の知識を求め、ヴォルヴァを呼び出す儀式を行う存在。『予言のヴォルヴァ』では冥界の巫女を蘇らせ、神々の運命を問いただす。
  • ヘル:冥界を統べる存在で、死者の魂を抱える領域を支配する。ヴォルヴァ召喚が冥界の知識に触れる行為であるため、その背景的存在となる。


 


というわけで、北欧神話の魔法使いは、セイズの源となったフレイヤ、知識のために禁忌の術に踏み込んだオーディン、そして運命を語り世界を読み解いたヴォルヴァという三つの姿で描かれてきました。


魔法とは、光や雷を飛ばす派手な力というより、「未来を知ろうとする心」や「自然と向き合う知恵」といった、深く静かなものだったんですね。
そう考えると、北欧神話の魔法使いたちは、ただのキャラクターではなく、時代の思いを背負った存在として語り継がれてきたのだと分かるんです。


🔮オーディンの格言🔮

 

わしは知っておった──その声が、わしの終わりをも語ることを。
それでもなお、死の眠りからヴォルヴァを呼び戻したのじゃ。
世界の始まりから滅びまでを見通すその言葉に、「抗えぬ運命を迎える覚悟」こそを求めた
セイズは卑しき術と笑うか──されど知ろうとする意志は、いかなる神よりも強き炎。
未来は変えられぬ──ゆえに、準備せよ。覚悟せよ。
わしは恐れてなどおらぬ。
ただ、すべてを見届けるために、その先を問い続けたのじゃ。