


オーディンの王座に座るフレイ(ヒリッズスキャルヴ)
オーディンの高座ヒリッズスキャルヴにフレイが座し、世界を見渡す場面。
ヴァン神族からアース神族に加わった彼と主神オーディンの結びつきを象徴する。
出典:『Frey had seated himself on the throne of Odin』-Photo by Frederic Lawrence/Wikimedia Commons Public domain
戦と知の神オーディン、そして豊穣と平和を司る神フレイ──この二柱の神さまの名前は、北欧神話を語るうえで何度も登場します。ヴァルハラの支配者として死者を導くオーディンに対し、フレイは光と実りをもたらす神。そんな違う性格の二人ですが、じつは共に神々の世界を支える、とても大切な存在なんです。
彼らはどちらも「主神」と呼ばれることもあるほどの重要人物。でも、出身も性格も、まったくと言っていいほど違う。なのに、どうして両者はぶつからず、北欧神話の中で共存できたのでしょうか?
本節ではこの「オーディンとフレイの関係」というテーマを、それぞれの役割・両者の関係・そしてそこから得られる教訓──という3つの視点に分けて、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!
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まずはオーディンとフレイ、それぞれがどんな役割を持つ神だったのかを見てみましょう。
オーディンはアース神族の主神で、戦い・知恵・詩・死者の魂などを司ります。戦場では勇敢に戦った者の魂を選び取り、ヴァルハラという死後の館に迎える神としても有名です。その一方で、知識や魔法を得るためには犠牲をいとわず、自らの片目を失ってまで知恵の泉を覗いたという逸話まで残されています。
一方、フレイはヴァン神族出身で、豊穣・平和・愛・太陽の光といった、どちらかというと「生きる力」を象徴する存在です。農耕や季節の実りをもたらす神として、民衆からの信仰も非常に厚かったと言われています。
こうして見ると、オーディンが「死」や「知」を象徴するのに対して、フレイは「命」や「自然」を象徴しています。つまり、彼らはまるで陰と陽のような存在。それぞれが足りないものを補うように、神々の世界をバランス良く支えていたわけなんですね。
神話の中でも、オーディンが前線で戦の指揮を執っている一方で、フレイは人々の暮らしの豊かさを願って地を潤していた…そんな風に思い描くと、なんだか少し神々の世界が身近に感じられるかもしれません。
次に注目したいのは、オーディンとフレイが「どんな関係性」であったのかという点です。
そもそも、オーディンはアース神族の一員、フレイはヴァン神族の出身。つまり最初は「別の神族」に属していたんですね。そして、この二つの神族──アース神族とヴァン神族は、かつて激しく争った歴史があります。ですが、その争いが終わったあと、平和の象徴として「神族交換」という取り決めが結ばれたんです。
そのとき、フレイは姉のフレイヤとともにアース神族にやってきました。つまり、フレイは“和平の証”としてオーディンたちのもとにやってきた神ということになります。
面白いのは、フレイがアース神族に加わったあと、オーディンと衝突するような描写がほとんど見られないことです。
これはきっと、神々が「違う価値観の神さまどうしでも、互いに認め合えばうまくやっていける」と教えてくれているのかもしれません。知恵と力のオーディンと、自然と実りのフレイという対照的な存在が共存していたこと──それは、神々の世界が単なる上下関係ではなく、多様性に満ちていた証なんじゃないでしょうか。
さて、ここまでで二人の神さまの役割と関係を見てきましたが、最後に「この関係から何が学べるのか」について少し考えてみたいと思います。
オーディンとフレイは、出自も性格も考え方もぜんぜん違います。でも、その違いがぶつかり合うのではなく、むしろ神々の世界の“広がり”を生み出しているという点がとても大事なんです。
つまり、神話が私たちに教えてくれるのは、「違うこと」って、悪いことじゃないってこと。同じじゃないからこそ、それぞれの良さが発揮されるし、思いもよらない新しい力が生まれるというわけです。
このオーディンとフレイの関係性は、現代社会にも通じるものがあると思います。
たとえば学校や職場で、全然タイプの違う人が同じチームになることってありますよね。そういうときに、相手と「違う」ことばかりを気にしてしまうと、なかなかうまくいかない。でも、互いの強みを認め合えたら、きっとすごいチームになれるんです。
オーディンとフレイが共に神々の世界を支えたように、私たちもそれぞれの違いを受け入れて、もっと豊かで楽しい毎日を作っていける──そんなメッセージが、北欧神話の中には込められているような気がします。
というわけで、オーディンとフレイは、たとえば性格も役割も正反対に見える存在です。でも、その「違い」があったからこそ、北欧神話の世界はもっと面白く、深みのあるものになったんですね。
フレイが和平の象徴としてアース神族に迎えられ、オーディンとともに世界を支えた──この神々の共存の姿からは、「違うからこそ、補い合える」「争いの後には理解がある」そんな教訓が伝わってきます。
神話の神さまたちは、今を生きる私たちにも大切なことを、静かに教えてくれているのかもしれませんね。
⚖️オーディンの格言⚖️
フレイよ──そなたがわしの高座ヒリッズスキャルヴに座したとき、何を見たのか。
豊穣の君が、戦と死の王座より世界を見渡した日、それは“ちがい”を超えて“共にある”ことの証じゃった。
平和と戦は対立するにあらず、循環の両輪なのじゃ。
わしはラグナロクのために軍を鍛え、そなたは愛のために剣を捨てた──どちらも王の選択。
互いに語らずとも、重荷を背負う者の覚悟はわかる。
そなたが命を賭して世界を守ったように、わしもまた全てを賭けた。
異なる道を歩みながら、同じ終焉へと向かう──それが、王たちの宿命というものよ。
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