「グングニル＆スキーズブラズニル創造」伝説とは

スレイプニルにまたがり槍グングニルを掲げるオーディン
北欧神話の主神オーディンが愛馬スレイプニルに乗り、不壊の槍グングニルを手にする場面。
出典：『Odin holding Gungnir atop Sleipnir』-Photo by Lorenz Frolich／Wikimedia Commons Public domain

オーディンが持つ不滅の槍グングニル、そして海も空も越えて進む魔法の船スキーズブラズニル──どちらも、北欧神話を語るうえで絶対に外せない伝説のアイテムです。トールのミョルニルと並び、神々の力を象徴する道具として、多くの物語で語り継がれていますよね。でも、そもそもこれらの名宝はどうやって生まれたのでしょうか？

実はこの裏には、ロキが巻き起こすちょっとした“いたずら”から始まる、とんでもないエピソードがあるんです。

本節ではこの「グングニル&スキーズブラズニル創造」伝説というテーマを、登場人物・物語の流れ・神話への影響──という3つの視点に分けて、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います！

主な登場人物──神々と小人たちの技の競演

この伝説に欠かせないのは、やっぱりオーディンです。

グングニルは、彼が持つ“必中の槍”。どんな相手にも必ず命中し、絶対に折れないとされる、まさに神話界最強クラスの武器。もう一方のスキーズブラズニルは、海神ニョルズの息子であるフレイの持ち物で、どんな嵐の中でも進むことができ、使わないときはポケットサイズに畳めるという、現代でも欲しくなるような“超便利アイテム”です。

そして忘れちゃいけないのが、この二つの宝物を生み出した存在──それがドワーフ（小人族）なんです。中でもブロックとエイトリという兄弟の腕前は、まさに神技レベル。

そして、この名宝たちの創造劇、きっかけはロキの“やらかし”でした。

あらすじ──名宝誕生の裏にあった職人たちの競争

ロキはある日、いたずらでトールの妻シフの美しい金髪を全部剃ってしまいます。これにトールが激怒。「弁償しないとただじゃおかないぞ！」という事態に。

そこでロキは、ドワーフたちの工房へ駆け込み、シフの髪の毛に加えて、いくつかの宝物を作るよう依頼するのです。結果、シフの髪の毛（本物の髪のように生える金）とともに、グングニルやスキーズブラズニルなど、数々の神々の至宝が誕生することになります。

さて、物語はここからもうひとひねり。

ロキは最初にシフの髪とともにグングニル、スキーズブラズニル、そして黄金のイノシシ「グリンブルスティ」などを作った小人兄弟イーヴァルディの息子たちの工房に行きます。でもそれだけでは満足せず、「もっとすごい宝を作れるやつ、いないかな？」と思いつき、別の職人ブロックとエイトリの兄弟に勝負を持ちかけます。

「もしお前たちの作った品が気に入られたら、俺の首をくれてやる！」という、ちょっと無茶な賭けを始めるロキ。

ブロック兄弟の集中力と、ロキの妨害

ブロックたちが創造に取りかかると、ロキはハエに化けて妨害します。手を刺したり、まぶたを噛んだりと、かなりしつこく攻撃。とくにハンマーを鍛えている最中にまぶたを刺され、思わず手を止めてしまう──それが、ミョルニルの柄が短くなった原因なんですね。

それでも彼らは見事に、ミョルニル、ドラウプニル（オーディンの腕輪）、そしてスキーズブラズニルを仕上げます。

グングニルとスキーズブラズニルは、こうした“工房バトル”の中で生まれた伝説の品なんです。

最終的にアース神族がどちらの作品が優れているかを審査し、わずかにミョルニルの力を上回るものはなかった──とされるんですが、グングニルとスキーズブラズニルも文句なしの名品として神々に贈られることになります。

その後の影響──神々の力と物語を象徴する存在に

グングニルとスキーズブラズニルは、ただの道具ではありません。それぞれの神の“個性”や“役割”を象徴する、大事なアイテムなんです。

たとえば、グングニルは知と戦の神であるオーディンの「秩序を貫く力」の象徴。ラグナロク（終末の日）では、この槍を使って戦場に突入し、自ら運命を受け入れる姿が描かれています。

一方、スキーズブラズニルはフレイの「豊穣と平和」を体現するような存在。自在に動き、折りたためるこの船は、人々の願いを運ぶようなイメージと重なって語られることもあります。

神話における“道具”の意味

ここでちょっと視点を変えてみると、北欧神話では「道具」そのものに、人格や運命が宿っているように描かれていることに気づきます。

グングニルもスキーズブラズニルも、ただ神に使われる“モノ”ではなく、物語のなかで重要な役割を持ち、時に神々の意思と共鳴するような存在なんです。

このように、名宝たちの伝説は、単なるファンタジーではなく、神々の生き方や信仰の姿勢を映し出す鏡のようなものだといえるでしょう。

というわけで、「グングニル」と「スキーズブラズニル」の創造の物語には、ロキのいたずら、職人たちの努力、神々の試練──そんな要素がぎゅっと詰め込まれていました。

オーディンが掲げるグングニル、フレイが誇るスキーズブラズニル──これらは単なる道具ではなく、神々の力と物語の魂を形にしたような存在なんですね。

名もなき職人たちの手から生まれ、神々の手に渡った宝物たち。その一つひとつに、神話を超えて生き続ける力が宿っているような気がしませんか？