


呪われた財宝を守るファフニール
小人アンドヴァリの黄金にかけられた呪いが、
竜となったファフニールの財宝として蓄えられている。
出典:『The dragon Fafnir now watches the hoard』-Photo by Arthur Rackham/Wikimedia Commons Public domain
英雄ジークフリートが竜を倒す話、財宝を守る怪物ファフニール、そして世界を飲み込む大蛇ヨルムンガンド──北欧神話には、どこか“トカゲ的”な姿をした生き物たちが数多く登場しますよね?でもよく考えてみると、「トカゲ」ってそもそも北欧神話の中でどういう存在だったんでしょう?
実は、あのファフニールも、火を吹くドラゴンというより、蛇やトカゲに近い姿で描かれていたりするんです。そしてその姿には、欲望、警戒心、知恵といった象徴がぎゅっと詰まっているんですよ。
本節ではこの「北欧神話のトカゲ」というテーマを、北欧文化との関わり・神話や民話の中での役割・そして象徴や教訓としての意味──という3つの視点に分けて、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!
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北欧の人々にとって、トカゲのような動物は、ただの小さな爬虫類ではありませんでした。
厳しい自然の中で生きる北欧の民は、地面の下や暗い森、氷の割れ目といった“見えない場所”に対して、本能的な恐れを感じていました。トカゲや蛇のように地を這う生き物は、そうした「人間の目に見えない世界」とつながっている存在として受け止められていたんです。
たとえば、トカゲは身を隠しながら移動し、必要とあらば一部を切り離してでも逃げのびる知恵を持っていますよね。それが、「したたかな生き方」「見えないところにこそ潜む危険」を象徴するようになったと考えられています。
北欧では、ドラゴン=西洋的な翼を持つ竜ではなく、蛇やトカゲのような姿で描かれることが多くあります。これは自然との結びつきが強い文化だからこそ。
「地を這う」こと=大地と深くつながっていること。だから、トカゲに似た姿は、神話の中でとても象徴的な意味を持っていたんですね。
トカゲに似た竜の代表例といえば、なんといってもファフニール。彼はドワーフだったのに、財宝への強すぎる欲望から、恐ろしい竜に変身してしまった存在です。
ファフニールは、黄金の指輪を含む財宝を兄弟と分け合わず、自分だけのものにしてしまおうと考えました。そして、財宝を守るために姿を変えて、洞窟の奥で這い回る怪物となったんです。
その姿は、まさにトカゲのように地を這い、疑い深く、他者を寄せつけないものでした。
ここがとても面白いところなのですが、ファフニールの変身は「魔法」ではなく、彼の心の中に巣食った欲望が、姿にも表れてしまったという見方ができるんです。
つまり、「誰にも渡したくない!」「奪われたくない!」という気持ちが強すぎて、彼は怪物になってしまった──というわけなんですね。
その変身後の姿が、空を飛ぶ勇ましいドラゴンではなく、這い回るトカゲ的な存在であることが、彼の堕落ぶりを物語っているんです。
ファフニールの話を通じて、「トカゲ的な存在」はどんな意味を持っているのか、もう少し深掘りしてみましょう。
トカゲは、敵から逃げるために尻尾を切るなど、生き延びるための戦術を自然に身につけています。そこから、「生き延びる知恵」「油断ならない頭の良さ」といった肯定的なイメージも生まれました。
でもその一方で、過剰な警戒心や、他人を信じられない心、何かに執着しすぎる気持ち──そんな負の感情とも深く結びついているんです。
面白いのは、ファフニールを倒した英雄シグルズが、その血を浴びたことで「動物の言葉を理解する力」を得たというエピソード。
これは、「怪物を倒したことで、その知恵や力の一部を受け継いだ」とも解釈できます。つまり、トカゲ的な存在には「危険な側面」と「力になる側面」が同居しているということなんですね。
トカゲ=ファフニール的な存在は、単なる悪役ではなく、「使い方によっては知恵となり、誤れば破滅を招く」──そんな人間の内面そのものを象徴しているのかもしれません。
というわけで、北欧神話に登場する「トカゲ的な存在」をたどると、そこには自然への畏敬、欲望への警鐘、そして知恵の象徴という、いくつもの意味が込められていました。
ファフニールは、財宝を守るために姿を変えた“トカゲの竜”。でもその姿は、心のありようが映し出されたものだったんですね。
トカゲのように小さくても、人を動かす力を秘めた存在──それが北欧神話における「トカゲ」だったというわけです。
🦎オーディンの格言🦎
竜とは、外から来る災いではない──内に棲む「変わり果てた心」のかたちなのじゃ。
財宝に魅せられし者が、地を這うトカゲへと堕ちたごとく。
姿とは、魂の歪みが映し出す“しるし”にすぎぬ。
ファフニールの咆哮は、わしらの欲望が叫んだ声にほかならぬ。
討たれし竜の残したものは、金ではなく──戒めと呪いの連鎖。
シグルドの剣が貫いたのは肉体のみ、呪いはさらに別の血脈へと息を吹き返す。
「心の竜」を飼いならせぬ者には、いずれ災いが背に這い寄るのじゃ。
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