


狼に追われる太陽の女神ソール
北欧神話では太陽(ソール)と月(マーニ)がそれぞれ戦車で天空を巡り、
狼スコールとハティに追い立てられる運行の寓話が語られる。
出典:『The Wolves Pursuing Sol and Mani』-Photo by John Charles Dollman/Wikimedia Commons Public domain
毎朝、空に昇る太陽。そのあたたかさや明るさに、なんとなく元気をもらえる気がしますよね。
北欧神話でも、太陽はとても大切な存在とされていて、ただの天体ではなく、神々の力を宿す「生きた存在」として語られているんです。
空を走る馬車をひいて、光を地上に運び、昼と夜を切り替える女神ソール。そんな彼女には、ある恐ろしい運命が待っている──そう、神々の最期「ラグナロク」で、太陽は“呑まれて”しまうんです。
というわけで、本節では「北欧神話における太陽の重要性」というテーマに立ち、神格としての太陽・世界を支える運行・終末における運命──という3つの視点から、一緒に紐解いていきましょう!
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北欧神話では、太陽は「ソール(Sól)」という女神の姿をした神聖な存在として登場します。
ソールは空に浮かぶ火の車に乗っていて、ふたりの馬──「アールヴァーク」と「アルスヴィズ」という名前の光の馬──がその車を引いているとされています。
この馬車が空を横切ることで、私たちの世界に昼が訪れるというわけです。
神話の中で太陽は、単なる自然現象ではなく、光と命を運ぶ尊い存在なんですね。
おもしろいのは、ソールが太陽の馬車を引くようになったのは「罰」のようなものだったという点です。
『詩のエッダ』によれば、ソールの父が神々に逆らったため、その娘である彼女が空の旅を命じられたとも言われています。
それでもソールは使命をまっとうし続け、私たちに昼とあたたかさを届けている──なんだか健気で、応援したくなっちゃいますね。
ソールの運ぶ太陽の光は、世界にとって欠かせないものでした。
なぜなら、北欧神話の世界は「昼と夜のリズム」によって秩序が保たれていると考えられていたからです。
ソールが空を走ることで昼が訪れ、彼女が地平線を過ぎると夜になる。
つまり、彼女の旅が世界の時間を動かしているともいえるんです。
実は、昼や夜、季節といった時間の流れを最初に作ったのは、主神オーディンをはじめとする神々です。
彼らは宇宙の最初に、空にソール(太陽)とマーニ(月)を配置して、その動きによって「時間」というものを生み出したとされています。
だから、太陽の存在は、ただ光を届けるだけじゃなくて、「時間を数えるための基準」としても神話の世界に根づいていたんですね。
この毎日の旅があるからこそ、世界はバランスを保ち、人々の暮らしも整っていく──ソールはまさに秩序の女神ともいえるでしょう。
そんな大切な存在である太陽にも、避けられない終わりがやってきます。
それが、「ラグナロク(神々の黄昏)」という、北欧神話における世界の終わりです。
ラグナロクが始まると、太陽の女神ソールは、ずっと追いかけられていた恐ろしい狼「スコル」についに追いつかれて、呑みこまれてしまうとされているんです。
太陽が食べられてしまうということは、昼も光も失われ、世界が闇に包まれるということ。
それまできちんと続いてきたソールの旅が止まるとき、それはこの世の秩序が崩れる瞬間でもあるんですね。
そして、それをきっかけに神々と巨人たちの最終決戦が始まり、多くの神々が命を落とすことになります。
でも、北欧神話はそれだけで終わりません。
ラグナロクの後には新しい世界が生まれ、ソールの娘が新たな太陽となって空を照らす──そんな希望の物語が続いていくんです。
どんなに暗い終わりが来ても、また光が戻ってくる。
それが、太陽という存在に込められた深い意味なんですね。
☀️オーディンの格言☀️
太陽はただ照らすだけの玉ではない──それは「使命を負う者の光」なのじゃ。
ソールよ、汝の火の馬車が運ぶのは、ぬくもりだけではなく、この世の秩序そのもの。
狼に追われながらも、日々の旅をやめぬ姿こそ、真の神性というもの。
ラグナロクにて汝が呑まれようとも、その娘が空に新たな光を掲げよう。
終わりは滅びではない──それは「受け継がれる意志」の始まり。
光は絶えぬ。使命もまた、血脈とともに巡ってゆくのじゃ。
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