


ユグドラシルの梢に棲む鷲と鷹ヴェズルフォルニル
世界樹の頂に鷲がとまり、その目のあいだに鷹ヴェズルフォルニルがいるとされる。
神々の世界の「兆し」を告げる存在として語られる。
出典:『The Tree of Yggdrasil』-Photo by W.G. Collingwood/Wikimedia Commons Public domain
空を飛ぶ鳥たちって、どこか神秘的で、何か特別な力を持っていそうに感じませんか?
オーディンの肩に止まる2羽のカラス、世界樹の頂にいる巨大なワシ、山のような鷹の羽音、そして天から舞い降りる白鳥のような乙女──北欧神話には、そんな「鳥」にまつわる神秘的な存在がたくさん登場します!
実はこれらの鳥たち、ただの飾りやお話の小道具じゃないんです。
それぞれが神々の力を代弁する存在だったり、神々と人間の世界をつなぐ「メッセンジャー」の役割を果たしていたりと、かなり重要なキャラクターなんですよ。
というわけで、本節では北欧神話の「鳥」にまつわる物語について、知恵と記憶を運ぶ鴉・世界樹を見守る鷲・神の頭上に舞う鷹・羽衣伝説の白鳥乙女──という4つの鳥の伝説を中心に、ざっくり紐解いていきます!
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まず紹介したいのが、北欧神話でフギン(「思考」の意)とムニン(「記憶」の意)と呼ばれる、2羽の黒いカラスです。
彼らは、神々の王・オーディンの両肩に止まっていて、毎朝空へと飛び立ち、世界中をめぐって情報を集め、夕方には戻ってオーディンに報告するんです。
つまりフギンとムニンは、オーディンの目であり耳であり、思考と記憶そのもの──とっても重要な存在だったんですね。
カラスって、日本だと「縁起が悪い」「不気味」なんてイメージを持たれがちですけど、北欧ではむしろ「知恵」や「預言」の象徴だったんです。
オーディンは、知識を手に入れるために片目を差し出したり、自分を世界樹に吊るしたりと、命がけで知を追い求める神様。
そんな彼にとって、世界を観察して知らせてくれるフギンとムニンの存在は、なくてはならないパートナーだったわけです。
次にご紹介するのは、世界樹ユグドラシルのてっぺんに棲む、とても大きなワシ──スノッリの『散文エッダ(ギュルヴィたぶらかし)』に、「ユグドラシルの頂には名のない大鷲が棲む」と記される──伝説の鳥です。
このワシは、ユグドラシルの上にどっしりと構え、空から世界を見下ろしている、いわば「神々の高みから世界を見つめる存在」。
その鋭い目は、地上の出来事を見逃さず、空の気配や風のうごきを感じ取る、そんな風に考えられていました。
面白いのが、このワシの真下、世界樹の根っこのあたりには「ニーズヘッグ」という恐ろしいドラゴン(蛇)が棲んでいて、このふたり──いつもケンカしてるんです。
両者の間をとりもっているのが、「ラタトスク」というリス。
彼は、上と下を行ったり来たりして、ワシとドラゴンに悪口を伝えては火種をまいてる、という困ったやつなんです。
なんとも独特な関係ですよね!
実は、さきほどのワシの頭のあたりに、もう一羽の鳥が止まっているんです。
それがヴェズルフェルニルと呼ばれる鷹のような鳥。
この名前、あまり馴染みがないかもしれませんが、北欧神話ではけっこう深い意味をもっている存在なんですよ。
ヴェズルフェルニルは、世界樹のてっぺんでワシとともに風を感じ、知恵と理性の象徴とされています。
この鷹は、口数は少ないけどすごく賢くて、何が起きても慌てないタイプ。
「見ること」「知ること」そのものをあらわす存在といわれています。
神々が人間の世界に干渉しすぎないように、そっと見守っているような……そんな役割を担っているのかもしれませんね。
まるで、空から世界を静かに見つめる“先生”のような存在です。
最後にちょっとおまけとして紹介したいのが、ワルキューレと白鳥の関係です。
ワルキューレというのは、戦場に現れて、勇敢な戦士の魂をヴァルハラへ連れて行く戦乙女たちのことですが、実は彼女たち、白鳥の姿に変身することができるという伝説もあるんですよ!
ワルキューレたちは、白鳥の姿で湖に舞い降り、ひととき羽衣を脱いで人間の姿になります。
ところが、その羽衣を人間に隠されると、天に帰れなくなってしまうんです。
このお話、どこか日本の「天女の羽衣伝説」に似ていると思いませんか?
世界各地にある「鳥と羽衣と天界の乙女」のお話が、北欧神話にも残っているなんて、なんだかロマンを感じちゃいますよね。
空を飛ぶ鳥たちは、ただの生き物じゃなくて、神話のなかでは“天と地をつなぐ”すごい存在なんだなぁと、改めて思わせてくれます!
🕊オーディンの格言🕊
空をゆく羽ばたき──それは風に乗せた「神々のまなざし」じゃ。
フギンとムニンはわしの思索を巡らせ、世界樹の頂ではワシと鷹が静かに時を見守る。
鳥たちは「知」と「兆し」と「天界とのつながり」を象る存在なのじゃ。
ラタトスクが伝える戯れ言すら、世界の呼吸の一部として聞き逃してはならぬ。
白鳥の羽衣に包まれた乙女たちも、地と天を結ぶ通い路を知っておる。
空を見よ──そこには、神々の記憶が翼となって舞っておる。
そなたの頭上をよぎる影があらば、それは何かを知らせる「兆しかもしれぬ」ぞ。
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