


ヘルヘイムでヘルに嘆願するヘルモーズの絵画
北欧神話の死後の世界ヘルヘイムを象徴する場面。
バルドル救出のため冥界の女主人ヘルの前に進み出るヘルモーズを描く。
出典:『Hermod before Hela』-Photo by John Charles Dollman/Wikimedia Commons Public domain
死んだら人の魂はどこへ行くのか──そんな疑問って、ふとした瞬間に頭をよぎりますよね。
北欧神話には、雷神トールや悪戯好きのロキ、知恵の神オーディンなど魅力的な神々がたくさん出てきますが、死んだ人間が行く“あの世”にもいくつかの種類があって、それぞれに意味や特徴があるんです。
ヴァルハラという戦士の館、フォルクヴァングという女神フレイヤの楽園、そして静けさに包まれたヘルヘイムなど──どうして死後の世界が複数あったのか、不思議じゃないですか?
というわけで、本節では「北欧神話の死後の世界」というテーマで、ヴァルハラ・フォルクヴァング・ヘルヘイムという3つの場をめぐって、それぞれの役割や物語の背景を楽しく共有していきます!
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まずは北欧神話の中でもいちばん有名な“死後の世界”、ヴァルハラから見ていきましょう。
ヴァルハラとは、主神オーディンが治める「戦士たちのための館」のことです。
戦場で命を落とした勇敢な者たちが、オーディンの使いであるワルキューレによって選ばれ、そこに迎えられるとされています。
毎日、彼らは訓練のような戦いを繰り返し、夜になると傷は癒えて、豪華な宴が開かれるという生活を送るんです。
ヴァルハラに集められた戦士たちは、ただのんびり過ごしているわけではありません。
彼らは、神々と巨人たちとの最後の決戦──ラグナロクに備えるために日々鍛えられているんです。
つまり、戦死者の魂は終わりの戦いの“戦力”として、特別に選ばれた存在だというわけですね。
勇敢さが何より大切にされる北欧の世界観が、ここにしっかり表れていると思いませんか?
ヴァルハラと並ぶもうひとつの「戦死者のゆくえ」として知られているのが、女神フレイヤが支配するフォルクヴァングです。
面白いのは、戦場で亡くなった者たちの半分はオーディンに、そしてもう半分はこのフォルクヴァングに引き取られるという点です。
つまり、フレイヤもまた、戦士の魂を選ぶ力を持っていたということなんですね。
ヴァルハラが「訓練と決戦」の場なら、フォルクヴァングはもっとやわらかく、戦士たちに安らぎを与えるような雰囲気がある場所だと考えられています。
フレイヤは愛と美の女神であると同時に、戦いや死とも関係の深い存在。
この二面性が、彼女の館であるフォルクヴァングにも反映されているのかもしれません。
ちなみに、細かい描写はあまり残されていないので、どんな暮らしをしているのか想像する楽しみも残されている場所です。
そして最後に紹介するのが、戦場で死んだわけではない人──老衰や病気、事故などで亡くなった人々が行く場所、ヘルヘイムです。
この国を治めているのは、ロキの娘である女神ヘル。
彼女の名をとって、死者の国のことをヘルヘイムと呼ぶようになったんですね。
どこか暗く冷たい印象を持つこの国ですが、そこには恐怖というよりも、静けさや受け入れの感覚が漂っています。
ヘルヘイムは、決して“悪い人が行く地獄”ではありません。
むしろ、戦いに関わらなかった多くの人びとが、そこで穏やかに休んでいるとされているのです。
女神ヘルも、厳しくもどこか哀しみを宿した存在として描かれます。
彼女は、魂を拒むことなくすべて受け入れる存在であり、だからこそ“異界の門番”としての役割を果たしているのでしょう。
北欧神話における死後の世界は、ただの「良いところ」「悪いところ」ではなく、生き方や死に方によって行き先が変わる、意味のある場所なんです。
それぞれの世界に込められた想いや、神々の意図を想像しながら読むと、北欧神話がもっと立体的に感じられますよ。
🕯️オーディンの格言🕯️
死とは扉にすぎぬ──わしらの物語では、命尽きた後にこそ、魂は「選ばれる」のじゃ。
勇気ある者はワルキューレに導かれ、わしの館ヴァルハラで来るべき戦いに備える。
フレイヤのフォルクヴァングには、優しきまなざしが宿る──そこは戦いの彼方にある癒しの庭。
されど最も多くの魂が辿るのは、女神ヘルの治めるヘルヘイム──そこは拒まず、咎めず、ただ静かに迎える地。
生き様に応じて行き先が分かれる、これがわしらの“死後の秩序”よ。
いかに生き、いかに死ぬか──その答えは、汝の歩みの中にある。
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