
イギリスと北欧神話は無関係のように思われがちですが、実はイギリスにも北欧神話の影響は一定程度浸透していました。特に、ヴァイキングによる侵略や、ノルマン・コンクエスト以前のアングロ・サクソン時代には、北欧神話の神々がイギリスの文化や言語に影響を与えていたのです。
本記事では、北欧神話がイギリスにどの程度浸透したのかを解説し、影響を受けた文化や歴史的背景について詳しく見ていきます。
イギリスに北欧神話が伝わった背景には、ヴァイキングの侵略や、アングロ・サクソン人の宗教が関係しています。
8世紀後半から11世紀にかけて、ヴァイキング(デンマークやノルウェーの海賊・戦士)がイギリスを襲撃・占領しました。彼らは北欧神話の神々を信仰しており、この時期にイギリスにも北欧神話の影響が見られるようになります。
ヴァイキングが襲来する前から、イギリスにはゲルマン系民族(アングロ・サクソン人)が住んでいました。彼らの信仰は北欧神話と共通する部分が多く、例えば以下のような点が挙げられます。
このように、イギリスにはもともと北欧神話と似た要素があったため、ヴァイキングの影響を受けた際に、スムーズに文化が混ざることができたのです。
とはいえ、北欧神話はイギリスで完全に浸透することはありませんでした。その主な理由を見ていきましょう。
7世紀頃までに、イギリスはキリスト教化されていました。そのため、ヴァイキングが北欧神話を持ち込んでも、キリスト教と衝突し、長期的には受け入れられませんでした。
1066年、ノルマンディー公ウィリアム1世(ウィリアム征服王)がイギリスを征服(ノルマン・コンクエスト)。ノルマン人はフランス語を話し、ローマ・カトリックの影響を受けていたため、北欧神話ではなくフランスの文化がイギリスに根付きました。
北欧神話は13世紀にアイスランドで「エッダ」として記録されましたが、イギリスにはこれに相当する記録が残されませんでした。そのため、神話としての体系が発展することはなかったのです。
北欧神話は完全に消えたわけではなく、イギリスの言語や文化にいくつかの影響を残しています。
英語の曜日には、北欧神話由来の名前がいくつかあります。
イングランド北部には、北欧語起源の地名が今も多く残っています。例えば、「-by」(村)や「-thorpe」(集落)などが付く地名はヴァイキング由来のものです。
北欧神話の物語は、イギリス文学にも影響を与えています。例えば、J.R.R.トールキンの『指輪物語』には、北欧神話のエルフやドワーフの要素が反映されています。
イギリスには北欧神話が完全に浸透したわけではないものの、ヴァイキングの侵略やアングロ・サクソン文化を通じて、一定の影響を受けました。しかし、キリスト教の普及やノルマン・コンクエストの影響で、北欧神話はイギリスで広く信仰されることはありませんでした。
それでも、英語の曜日や地名、文学作品など、現代のイギリス文化にも北欧神話の痕跡が残っているのです。