


ウーデンを描いた12世紀のアングロ・サクソン系写本
アングロ・サクソンの王統の祖とされる主神
後代の北欧最高神オーディンに相当する神格
出典:『British Library Cotton MS Caligula A VIII f. 29r』-Photo by Unknown/Wikimedia Commons Public domain
円卓の騎士の冒険、妖精たちのいたずら、ロビン・フッドの伝説──イギリスには古くから、わくわくするような民間伝承が数え切れないほど伝わっています。でも、そんなイギリスの物語の中にも、実は北欧神話と深いつながりを持つ神々の姿があるって知っていましたか?
その代表が「ウーデン(Woden)」という存在。これは北欧神話の主神オーディンと同一視されていて、イギリスに渡ってきたアングロ・サクソン人たちは、彼を王統の祖とさえ語っていたんです。
本節ではこの「イギリスの民間伝承」というテーマを、自然と暮らしの中の信仰・神話を受け継ぐ民話・北欧神の記憶が残る土地──という3つの視点に分けて、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!
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イギリスといえば、しっとりとした霧に包まれる森や、なだらかな丘が続く田園風景。そこには、妖精や魔女、精霊が棲んでいそうな雰囲気が今も色濃く残っています。
そして何より特徴的なのが、イギリスの島国としての地理。ヨーロッパ本土から独立しているがゆえに、さまざまな民族が流れ込み、混ざり合ってきた歴史があるんです。
その中には、4〜5世紀ごろにゲルマン系のアングロ・サクソン人がブリテン島にやって来たという出来事も。彼らは自分たちの神々や信仰を持ち込み、それが後のイギリスの民間伝承にも深く影響を与えました。
つまり、イギリスの古い伝説の中には、実は大陸ゲルマンや北欧の神話の“かけら”が今も隠れているんですね。
アングロ・サクソン人が語り継いだ神々の中で、最も重要だったのがウーデン(Woden)。これは北欧神話で知られるオーディン(Odin)と同一視される神で、知恵と戦の神として信仰されていました。
イギリスの古代王家の系譜の中では、「我が家の祖先はウーデン神である」と語られることもあったほどです。
キリスト教の広がりとともに、ウーデンのような異教の神々は次第に表舞台から姿を消していきます。でも、その精神や性格は別の形に姿を変えて、妖精や霊的な存在として語り継がれていったんです。
たとえば、知恵と神秘に長けた謎の老人、夜の風に乗って旅する「ワイルド・ハント(荒れ狂う狩人の行列)」の主──これらはウーデンの面影を今に伝えるものだと考えられています。
そうして、ウーデンのような神々は、イギリスの民話の奥底にひっそりと生き続けているのです。
イングランド中部や南部には、アングロ・サクソン人が拠点とした古い集落や、神話と結びつけられる地名がたくさん残っています。
たとえば「Wednesbury」や「Wednesfield」という地名──これはまさに「Woden's borough(ウーデンの町)」、「Woden's field(ウーデンの野)」が語源となっているんです。
さらに身近な例として、英語の曜日名にもウーデンの影が残っています。「Wednesday(水曜日)」という言葉、じつは“Woden’s Day”=ウーデンの日に由来しているんです。
これは、ローマの神・メルクリウスに相当する日を、ゲルマン神話ではウーデンに対応させたため。まさに神話が、言葉の中にも残っている証拠なんですね。
というわけで、イギリスの民間伝承は、島国ならではの多重文化の中で形を変えながら受け継がれてきた神話の記憶でした。
アングロ・サクソン人が連れてきたウーデンという神は、時に王家の祖として、また妖精たちの影として、今も人々の言葉や風習の中に生き続けているんです。
神話がただの昔話ではなく、名前、地名、そして曜日の中にまで溶け込んでいるなんて──とてもロマンチックだと思いませんか? もしかすると、私たちが毎週過ごしている「水曜日」にも、ほんの少しだけ、ウーデンの眼差しが宿っているのかもしれません。
🌬オーディンの格言🌬
ウーデンとは、かつてわしが辿ったもうひとつの名じゃ。
ブリテンの地にも、わしの足音は風とともに届いておる。
ヴァイキングの船とともに、神話は海を越え、言葉となり、地名となり、そして日常に息づいたのじゃ。
森に潜む幻影、賢者の面影、異界を彷徨う魂──
それらはすべて、時を超えて変容した“わしら”の影にほかならぬ。
神の名が忘れられても、物語が続く限り、魂はそこに在り続けるのじゃ。
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