


戦車で空を駆けるトールの挿絵
雷神として最もよく知られるが、力強い空の支配者でもある。
出典:『Thor and Loki in the Chariot』-Photo by H. L. M./Wikimedia Commons Public domain
雷鳴とともに現れるトールの戦い、大鷲の羽ばたきで風が吹くという伝承、そして空を舞う謎の馬の伝説──北欧の空にまつわる神話や民間伝承には、想像を超えたスケールのキャラクターたちが登場します。雲の向こう側には、どんな神や精霊が潜んでいるのでしょうか?
北欧神話では、「空」を単なる背景ではなく神々が力をふるう舞台として捉えていました。そこには雷、風、そして神の乗り物さえもが飛び交い、物語に迫力と奥行きを与えているんです。
本節ではこの「北欧神話における空の神」というテーマを、雷神トール・風の源とされるフレースヴェルグ・空を駆ける馬スレイプニル──という3つの視点に分けて、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!
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北欧神話の中でも、とくに人気がある神様がトール。オーディンの息子であり、雷を司る空の守護神でもあります。
トールが持つ「ミョルニル」というハンマーは、空を割って雷を落とすほどの威力を誇り、神々の世界アースガルズから巨人たちの世界ヨトゥンヘイムまで、空を飛んで彼の手元に戻ってくるという、とんでもないアイテムです。
さらに注目したいのが、彼の乗り物。トールは二頭のヤギ「タンニスヴィスト」と「タンングリスニル」が引く戦車に乗って、空を駆けるんです!
しかもこのヤギたちは、彼が食事にしても骨を残しておけば、翌日には生き返るという再生能力を持っています。戦って、食べて、また走る…なんとも豪快で、空の神としての迫力がにじみ出ていますよね。
こうして見ると、トールは「空を支配する神」というよりも、「空で暴れまわるパワフルな守り神」といった方がしっくりくるかもしれません。
「風はどこから来るの?」──そんな素朴な疑問に、北欧神話はとても詩的な答えを用意してくれています。
それがフレースヴェルグという存在。巨大な鷲の姿をしていて、その羽ばたきが風を生み出していると語られています。
この鷲は「世界の北の果て(norðr at enda heims)」に棲んでおり、世界樹ユグドラシルの外周、宇宙の境界側に座す鷲形の巨人という位置づけです。
「フレースヴェルグが羽ばたくと風が吹く」という表現には、自然を擬人化して理解しようとする、当時の人々の感性が現れています。
空は神々の世界のすぐ下にある──そんな空間認識が、神話全体に深く染みこんでいるんです。フレースヴェルグのようなキャラクターが、「風」という目に見えない力を空と結びつける役割を果たしていたわけですね。
そして何より、空にいる存在が自然を動かすという考え方は、空が「ただの空間」ではなく力が宿る神聖な場所だったことを教えてくれます。
最後に紹介したいのが、オーディンの愛馬スレイプニル。この馬、なんと脚が八本もあるんです!それだけでただ者じゃない感じがしますよね。
スレイプニルは、陸の上だけでなく、空も海も、そして冥界さえも自由に行き来することができるという、まさに万能の乗り物。
その速さは雷のようで、神々の伝令や、魂を異界へ運ぶ使者としても描かれることがあります。
オーディンが空を飛ぶとき、多くの場合はこのスレイプニルに乗っているとされています。つまり、スレイプニルは空の神々の移動手段であり、空そのものをつなぐ象徴なんです。
しかもスレイプニルの生まれには、ちょっと変わった背景があります。母親は、なんとロキ。しかもロキが「雌馬」に化けて出産したという、とんでもエピソード付き。
神話って、本当に自由で、空想力にあふれてるなあと感心してしまいます。
というわけで、北欧神話の「空」に関わる存在たちは、ただ空にいるだけじゃなく、それぞれ自然の力を表現し、神々の世界と私たちをつなぐ大事な役割を持っていました。
トールは雷鳴とともにヤギの戦車で空を駆け、フレースヴェルグはその羽ばたきで風を生み、スレイプニルは神の乗り物として空と冥界をつなぐ──どれも「空の神」という言葉では語り尽くせないスケールの大きさです。
こういう神話を知ると、空を見上げるたびに、そこに何かがいるような気がしてきますよね…!
☁オーディンの格言☁
空とは、神々の息吹が宿る「鏡」──雲の形も、風のささやきも、わしらの気配を映すのじゃ。
トールが空を駆けるとき、稲妻は誓いの閃きとなり、雷鳴は巨人どもへの警告となる。
空を飛ぶものは、ただの鳥にあらず──知を運ぶ翼でもある。
フギンとムニンが世界をめぐるごとく、そなたもまた空を見上げ、想いを馳せよ。
神々は遠き高みだけにおらぬ。風が頬をなでるとき、空のむこうで誰かが微笑んでおるかもしれぬぞ。
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