


クトゥルフのスケッチ
人知を超えた宇宙的恐怖を象徴する存在を描いた図像。
北欧神話とは違う、ラヴクラフト世界の異形神話を端的に示す。
出典:『Cthulhu sketch by Lovecraft』-Photo by H. P. Lovecraft/Wikimedia Commons Public domain
神話と聞くと、どこか遠い昔の神々の話を想像する人が多いかもしれません。でも、実は20世紀になってから創られた「神話」もあるんです。それが、アメリカの作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフト(1890–1937)によって生み出されたクトゥルフ神話。
一方で、北欧神話は何百年も語り継がれた神話。オーディンやトール、ロキが登場し、世界の始まりから終末「ラグナロク」までを描いた壮大な物語です。
このふたつ、一見すると全然違うもののようですが、「神」や「世界のあり方」に関する深い問いを描いているという点では、意外な共通点もあるんですよ。
というわけで本節では、「北欧神話とクトゥルフ神話の違いを知る」というテーマで、クトゥルフ神話の特徴・共通点・決定的な違い──この3つの切り口で深掘りしていきます!
|
|
|
まずは、クトゥルフ神話ってそもそもどんな神話なのか、知らない方のためにおさらいしておきましょう。
この神話は、20世紀初頭のアメリカで活躍した作家H・P・ラヴクラフトによって創られたフィクション作品群をもとにした“創作神話”です。
彼の作品に登場する「クトゥルフ」や「ニャルラトホテプ」「アザトース」などの“神々”は、地球や人間の常識をはるかに超えた宇宙的存在(Great Old Ones / Outer Gods)であり、もはや善悪や意思すら持たない「自然のような存在」として描かれています。
クトゥルフ神話において、神々は「信仰の対象」ではなく、「知ることすら許されない恐怖の象徴」です。
神々の名前を唱えることや、存在を知ってしまうことが狂気や破滅を呼びこむとされていて、ラヴクラフトの作品には「人間には理解できないものを前にした絶望」が何度も登場します。
「神=救い」ではなく、「神=人間の理性が届かない何か」という設定が、クトゥルフ神話最大の特徴と言えるでしょう。
まったく毛色が違いそうなこの2つの神話ですが、実はよく見ると意外な共通点もあるんです。
まず第一に、どちらの神話も「人間よりはるかに強大で恐るべき神々」が登場するという点。
たとえば、北欧神話の「フェンリル」や「ヨルムンガンド」は巨大な力を持ち、神々すら倒す存在です。
さらに、両者ともに「終末」を強く意識した構造を持っています。
北欧神話では、「ラグナロク」によって世界が破壊され、神々も人間も戦いの果てに滅んでしまう。
一方、クトゥルフ神話では「旧支配者(Old Ones)」たちが再び目覚めると、人類文明は無力に押しつぶされて終焉を迎えるとされています。
どちらも、「世界がいつか壊れる」という壮大なビジョンを描いているんですね。
ただし、北欧神話には“再生”の希望があるのに対して、クトゥルフ神話はひたすら絶望的なのが大きな違いでもあります。
さて、最大の違いは何かというと、それは「神の役割」や「人間との関係性」です。
北欧神話の神々──オーディンやフレイヤ、バルドルたちは、たしかに人間より強い存在ですが、人間と同じように悩み、怒り、時に失敗します。
人間のことも気にかけていて、たとえばオーディンは人間に知識を与えるためにルーン文字を発見したりしますよね。
これに対して、クトゥルフ神話の神々は、人間のことを「存在していることすら気づいていない」レベルの存在です。
崇拝しているのは、むしろ狂信的なカルト集団などで、まともに関わろうとすると必ず破滅が待っています。
つまり、北欧神話の神々は「人間と共にいる存在」ですが、クトゥルフ神話の神々は「人間を超越し、理解も共感もできない存在」なんです。
また、物語のスタイルも異なります。
北欧神話は物語性が強く、「神々の行動」がドラマとして展開されていきますが、クトゥルフ神話はむしろ雰囲気重視で、「説明されない恐怖」や「理屈ではない不安」を読者に体験させる構造になっています。
──というわけで、両者はまったく別の神話体系に見えて、どちらも「人間と神」というテーマを通して、世界の不思議と怖さに触れさせてくれる物語なんです。
「神って、いったい何なんだろう?」──そんな根本的な問いを投げかけてくる、どちらもとっても奥深い神話なんですよ!
👁🗨オーディンの格言👁🗨
神とは救いか、あるいは終焉か──その問いに、わしらは神話というかたちで応えを刻んできたのじゃ。
北の地では、わしらが運命に抗い、命を賭して未来を拓く姿が語られた。
だが、深き海の底からは、「知ることすら罪」とされる神々の囁きが聞こえてくる。
どちらも、世界を知ろうとする者への警鐘──光のもとに進む道もあれば、影の中に立ち尽くす道もある。
誇りと絶望、希望と沈黙。
神話とは、いかにして世界と向き合うかを映す、魂の鏡なのじゃ。
|
|
|
