


バルドルの死
光と美の神バルドルを描いた場面で、北欧神話におけるアポロン的存在として知られる。
出典:『The Death of Balder』-Photo by Christoffer Wilhelm Eckersberg/Wikimedia Commons Public domain
ギリシャ神話の「アポロン」といえば、光と芸術、そして神託の神。
若く美しいその姿は、神々の中でもとりわけ目を引き、人間にも親しまれてきた存在ですよね。
一方、北欧神話において「光と美」を象徴する神といえば、まっさきに思い浮かぶのがバルドルです。
その純粋さと輝き、そして何より悲劇的な最期によって、彼は今なお多くの人の心を打ち続けています。
同じ「光の神」でありながら、その性格や役割、運命には深い違いがある──それがこのふたりの神を見比べる面白さでもあります。
というわけで本節では、「北欧神話のアポロン」を考えるヒントとして、アポロンの特徴・バルドルとの共通点・そしてふたりの決定的な違いという3つの視点から、その魅力と深みを探っていきます!
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ギリシャ神話において、アポロンはゼウスとレートーの子として生まれた光と予言と音楽の神です。
また、彼は弓の名手でもあり、病や死をもたらす一方で、それを癒す力も持つという二面性を持っていました。
アポロンは芸術の守護者としてリラ(琴)を奏で、ミューズたちとともに詩や音楽の神聖さを体現する存在でもあります。
また、デルポイの神託所において神々の意志を人間に伝える役割も担い、「神託の神」として広く信仰されていました。
アポロンは、感情に流されることが少なく、冷静さや理性、美しさと調和を重んじる神とされています。
彼の持つ光は単なる物理的な明るさではなく、知性や文明の象徴でもあるのです。
「美しく、知的で、調和を愛する神」──それがアポロンの神格を支える要素と言えるでしょう。
北欧神話において、アポロンと並び立つ「光の神」といえば、やはりバルドルの名があがります。
バルドルはオーディンとフリッグの子で、その姿は太陽のようにまぶしく、全ての存在から愛される純粋な神として描かれています。
彼の周囲には常に平和と美しさが満ちており、「彼がいるだけで世界が穏やかになる」とまで言われていたんですよ。
バルドルは、夢に見た「自分の死」を予知してしまうほど、繊細で予知能力にも通じていたとされます。
これもまた、神託の神アポロンと重なるポイントかもしれませんね。
また、両者ともに「戦い」ではなく「秩序や平和」を象徴する神格であるという共通点も見逃せません。
では、アポロンとバルドルの違いとは何でしょうか。
それはやはり、運命と死に対する在り方にあるといえます。
アポロンは、ギリシャ神話の中でほとんど不死の存在として描かれ、最後まで神々の一員として生き続けます。
一方で、バルドルは「ラグナロク(世界の終末)」を前に、神々の中で真っ先に命を落とす運命にあるんです。
バルドルは、ロキの策略によって盲目の弟ホズによって命を奪われてしまいます。
これは北欧神話全体に影を落とす出来事であり、ラグナロクへ向かう重要な転機となるのです。
けれどバルドルの物語はそれで終わりではなく、ラグナロク後の新世界で、バルドルは蘇るとされています。
アポロンが「終わらない光」なら、バルドルは「いったん失われ、ふたたび戻る光」──そんな違いがあるのです。
この「一度死んでから復活する」という神格は、アポロンには見られない特徴であり、北欧神話ならではの「滅びと再生の美学」を象徴する存在と言えるでしょう。
それぞれの神話が描く「光」のあり方──そこにこそ、バルドルとアポロンの本質的な違いがあるのかもしれませんね。
🌞オーディンの格言🌞
わしの息子、バルドルの名が語られるとき、世界はふと静まり返る。
その姿は陽光のごとく美しく、心根は真昼のように澄みきっておった。
されど──それほどに輝くものほど、この世では儚くも脆い。
「光」が光として認識されるのは、闇を通った者の目にこそ明らかなのじゃ。
ギリシャのアポロンは永遠に神座を保つが、バルドルは一度死し、やがて新たな世に戻る。
この違いこそが「わしらの物語」が語る死生の深さ──滅びを超えてなお、希望を託すということ。
神でさえ終わる。しかし、終わりの向こうでまた始める。
それこそが、世界樹の枝を通う“光”の真なる道筋なのじゃ。
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