北欧神話の「創造神」といえば?

北欧神話の「創造神」とは

北欧神話の世界は、氷と炎が交わる狭間から生まれた巨人ユミルの存在によって始まったとされる。神々はこの原初の巨人を倒し、その身体から大地や海、空を形づくったという。無からの創造ではなく、混沌と犠牲の上に築かれた世界観こそが、北欧神話の「創造神話」をより深く、哲学的な物語へと昇華させているといえる。

ユミルの体から生まれた世界北欧神話の「創造神」を知る

オーディンと兄弟がユミルの身体から世界を創造する場面

オーディンと兄弟がユミルの身体から世界を創造する場面
北欧神話では単独の創造神ではなく、オーディンらが共同で世界を形作る。
巨人ユミルの身体が大地や海、空になるという創造譚を描く。

出典:『Odin and his brothers create the world』-Photo by Lorenz Frolich/Wikimedia Commons Public domain


 


氷と炎の世界がぶつかる場所で生まれた巨人ユミル、塩をなめる牛の中から姿を現した神ブーリ、そして巨人の身体をバラバラにして世界を創ったオーディンたち…。
北欧神話には、ちょっとびっくりするような世界創造の物語がたくさんありますよね。いったい誰が最初の神で、どうやってこの世界が生まれたのでしょうか?


じつは北欧神話の「創造」は、神々が初めからいたわけではないという、少し不思議なスタートなんです。


本節ではこの「北欧神話の創造神」というテーマを、ユミル・ブーリ・オーディン──という3人(?)のキャラクターの視点から、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!



原初の巨人ユミル──混沌から生まれた最初の存在

北欧神話の物語は、「氷の国ニヴルヘイム」と「炎の国ムスペルヘイム」という、まったく正反対の世界が出会ったところから始まります。その中間の場所、ギンヌンガガプという空虚な空間に、氷と炎が混ざりあって生まれたのが、原初の巨人ユミルなんです。


このユミルこそが、すべての巨人たちの祖先であり、最初に生まれた「いのちある存在」なんですね。


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“創造”の材料となったユミル

でも、ユミル自身が世界を作ったわけではありません。むしろ彼は、“世界そのものの材料”になったんです。
のちに登場する神オーディンとその兄弟たちによって殺され、彼の身体はバラバラにされて、世界のあらゆる部分へと変わっていきます。


骨は山に、血は海に、頭蓋骨は空に──というように、ユミルは「原材料」としてこの世界の土台になった存在。その意味で、ユミルもまた“創造神”の一部として捉えることができるんですね。


❄️ユミルの「原材料」一覧❄️
  • 血:世界創造の際、ユミルの血は海や湖などの水域を形成する原材料とされた。
  • 肉:大地を形作る素材として用いられ、地表そのものの基盤となる。
  • 骨:山々の形成に用いられ、世界の地形構造の柱を成すとされる。
  • 歯・砕けた骨片:岩や礫などの細かな地形の原材料として扱われる。
  • 髪:樹木や森林を生み出す素材とされ、自然界の植生を象徴的に形成する。
  • 頭蓋骨:天を覆う「空」の材料となり、その下に世界が広がる構造を生み出した。
  • 脳:空に散らばる雲の原材料として利用された。


神々の始祖ブーリ──塩から生まれた謎の神

ユミルの時代、もうひとつ不思議な存在が誕生しています。それが神々の始祖ブーリです。
この神様は、なんと氷をなめていた巨大な牝牛アウズンブラが、塩の中からなめ出して現れたというんだから驚きですよね。


ブーリは非常に謎の多い存在ですが、神族の始まりに関わる、とても重要な役割を持っています。


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オーディンの祖父という立ち位置

ブーリ自身について詳しい物語は残っていないのですが、彼の息子ボルと、巨人族ベストラの娘とのあいだに生まれたのが、オーディンとその兄弟たちです。


つまり、ブーリは「神の系譜」の最初の点
直接的な創造の行為はしないけれど、神々をこの世にもたらした最初の存在として、「創造神の祖父」と言ってもいいくらい、重要なキャラなんです。


氷・塩・牛という、自然の要素の中から生まれたという点も、北欧神話らしい“原初の生命”のあり方を感じさせますね。


❄️神々の始祖ブーリの謎❄️
  • 誕生の起源の曖昧さ:ブーリは牝牛アウズフンラによって氷から舐め出されて出現したとされるが、その前後関係や「なぜ氷に閉じ込められていたのか」といった根源的理由は語られず、神話上の大きな謎となっている。
  • 創造体系との位置づけの不確定さ:ブーリはアース神族の祖として重要であるにもかかわらず、神々との関係や役割が詳細に語られない。ユミルと巨人族の系譜が明確なのに対し、ブーリは物語世界に突然出現する点が特異である。
  • 後代資料の影響と不在:スノッリ『エッダ』ではブーリの存在が簡潔に述べられるのみで、詩語や口承伝統に広い痕跡を残していない。このため、後世の学者は物語の断片性や編集の痕跡を推察するが、決定的な解釈が存在しない。


最高神オーディン──ユミルの身体から世界を作った神

さて、いよいよ登場するのが本命中の本命、オーディンです。
彼はブーリの孫であり、兄弟のヴィリ、ヴェーとともに、世界の創造というとてつもない仕事を成し遂げた神です。


その方法は、ちょっとショッキング。
彼らはユミルを殺して、その身体を使って世界を作ったんです。


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バラバラから“秩序ある世界”を創る

ユミルの血は海となり、骨は山に、髪は森、頭蓋骨は天となりました。そして、火の国の火花で太陽や星が生まれ、脳みそは雲に変えられたと言われています。


バラバラだったものを組み合わせて、ひとつの世界を作り出す──それがオーディンたちの“創造の仕事”だったわけです。


この話が面白いのは、創造が「無」からではなく、「混沌」や「死」から生まれるというところ。
オーディンはその後も、知恵を求め、ルーン文字を発見し、神々の秩序を築きます。つまり、世界を形づくり、運命を導く存在として、まさに“創造神”にふさわしい働きをした神なんです。


❄️世界創造における三兄弟の役割❄️
  • オーディン:三兄弟の中心的存在で、創造行為の主導者。ユミルの身体を素材として世界を形成する計画を担い、のちに人間に生命を吹き込む「精神(息)」を与えた神としても重要である。
  • ヴィリ:創造作業にオーディンと共に参加した神で、人間創造の際には「知性(本性・理解力)」を与えたとされる。三兄弟の協働による世界秩序形成の一柱を担う。
  • ヴェー:創造行為の三人目の担当者で、人間創造では「感覚(視覚・聴覚などの知覚能力)」を授けたと伝えられる。三兄弟の協働によって、世界と人間が完全な形を持つこととなる。


 


というわけで、北欧神話における「創造神」というのは、ただひとりの万能の神というより、それぞれの役割を持った存在たちの協働によって成り立っているのがわかります。


混沌から生まれ、世界の素材となった原初の巨人ユミル、神々の系譜を開いたブーリ、そして知恵と秩序で世界を形づくったオーディン──。


創造というのは「始まり」だけでなく、「形にする力」でもある
それぞれのキャラクターが持つ力の重なりが、私たちの世界の成り立ちを彩っているんですね。


創造神と聞いてイメージする“絶対的な存在”とはまたちがう、北欧神話らしいダイナミックな世界観がここにはあると思いませんか?



🌍オーディンの格言🌍

 

世界とは、無から創られたのではない──混沌の果てに、生まれたのじゃ。
氷と炎が出会い、ユミルが生まれ、そしてその命をもって、わしらは大地を築いた。
創造とは、素材と意志の交差点──ただ形にするだけでは、世界にはならぬ
ユミルの血が海となり、骨が山となり、頭蓋が空を支えた。
されど、あの巨人が自らの意思で何かを築こうとしたことは一度もなかった。
わしらは「終わらせること」を選んだ──それは、新しき秩序への「はじまり」でもあったのじゃ。
世界とは、奪うことで生まれたにあらず。託された命の続きとして、生まれたのじゃ。