


トールの戦車を引くタンニグリストとタンニョースト
巨人ヒミルとの一件の後、復活させたヤギのうち一頭が足を痛めていることに気づく場面。
出典:『Tanngrisnir and Tanngnjostr by Frolich』-Photo by Lorenz Frolich(1820-1908)/Wikimedia Commons Public domain
北欧神話に登場する神さまたちのなかでも、雷神トールが乗る戦車を引く「二頭のヤギ」や、甘い蜜酒を生み出す「雌ヤギ」など、山羊ってなにげに重要な役割を果たしているんです。
タンニグリストやタンニョースト、そして蜜酒を生むヘイズルーン、さらに現代のクリスマス風習にもつながる「ユールのヤギ」──どれも不思議で、ちょっと面白い存在ばかり!
山羊は、ただの動物としてだけじゃなく、「神さまに仕える動物」や「自然の恵みの象徴」として、大事に扱われてきたんですよ。
というわけで、本節では「北欧神話に出てくるヤギ」について、トールの戦車を引く神聖な二頭のヤギ・蜜酒を生む魔法のようなヤギ・冬のお祭りとつながる民間伝承のヤギ──という3つのポイントに分けて、楽しくお話していきます!
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北欧神話の人気者といえば、やっぱり雷神トール。彼が空を駆けるときに使っているのが、二頭のヤギが引く戦車なんです。その名前が、タンニグリスト(Tanngrisnir)とタンニョースト(Tanngnjóstr)。
この二頭、見た目はただのヤギじゃないんですよ。なんと、トールが空を移動するための力強い「乗り物」になっているんです。
しかも驚くことに、トールは時々このヤギたちを料理して食べることがありました。でも大丈夫。次の日には魔法のように生き返るんです。
ただし、骨を折ってしまったら生き返らなくなるというルールもあって、実際にその失敗をした人間の子どもが物語の中に登場します。
このエピソード、ただのファンタジーじゃなくて、「命をもらって生きる」という自然とのつながり、そして「感謝の心」を教えてくれているようにも感じます。
次にご紹介するのは、アースガルズ──神々の国に住む、不思議なヤギ「ヘイズルーン(Heiðrún)」です。
彼女は普通のヤギとはちがって、枝に葉をつけた聖なる木「ラーラルの木」を食べて、そこから蜜酒(ミード)を出すという、とんでもない能力を持っています。
この蜜酒は、戦死者たちが集う場所「ヴァルハラ」で飲まれているもので、戦士たちに活力を与える“神さまのごちそう”ともいえる存在なんです。
ヘイズルーンが一日中生み出す蜜酒は尽きることがない──つまり、永遠の祝宴の象徴でもあるんですね。
山羊がこんなふうに「豊かさ」「恵み」「喜び」と結びついているなんて、ちょっとびっくりしませんか?神話のなかでは、こうした自然の力をどうにか形にして伝えようとしていたのかもしれません。
神話に登場する山羊たちとは別に、北欧の冬至祭“ユール”に欠かせない存在が「ユールのヤギ」です。
ユールは、古くから北欧で行われてきた冬至の祝いで、のちにキリスト教のクリスマスと重なりながら現在まで受け継がれてきました。その中でもヤギは、特別な象徴として人々の記憶に深く根づいています。
ユールのヤギは、もともと豊穣や太陽の再生を象徴する存在として家々を訪れ、祝福をもたらす役割を担っていたとされています。地域によっては、ヤギの仮面をかぶった者が家を回り、悪い行いを戒めたり、祝福を授けたりする伝統も見られました。
やがて時代が進むにつれ、ヤギはより親しみのある存在へと姿を変え、プレゼントを配る役目を担うようになった地域も出てきます。現在では、麦わらで作られた「ユールのヤギ(Julbock)」がクリスマス飾りとして親しまれ、古い信仰の名残を静かに伝えています。
この伝承においてヤギは、“人々に幸運と温もりを運ぶ守護者”として大切にされてきました。
神話では神々のそばに寄り添い、民間伝承では冬の厳しさから人々を守る存在として活躍するヤギ。北欧において山羊という動物は、古来より「力」「恵み」「太陽の復活」を象徴する、特別な仲間だったのかもしれません。
🐐オーディンの格言🐐
ヤギとは、ただの草食む獣にあらず──わしらの物語では「力と祝福の担い手」じゃ。
トールの戦車を引いたタンニグリストとタンニョーストは、命を与え、命を返す輪廻の象徴。
蜜酒を生むヘイズルーンの乳は、ヴァルハラの祝祭を支える「尽きぬ恵み」。
ユールの夜を彩る藁のヤギにも、人々の祈りと喜びが編み込まれておる。
神と共に駆け、民と共に祝うその姿に、自然への感謝と畏れが宿るのじゃ。
風に角を向けるあの姿こそ、北の大地に根ざした“生きた神話”の証よ。
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