


森の泉をのぞき込むトゥヴスタッル姫
スウェーデンの民間伝承を題材にした挿絵。
森の精やトロールが息づく幻想世界を象徴する名場面。
出典:『Princess Tuvstarr gazing down into the dark waters of the forest tarn』-Photo by John Bauer/Wikimedia Commons Public domain
「森の奥には、何かがいる気がする」──そんなことを思ったこと、ありませんか?
湖に浮かぶ美しい島々、果てしない森のなかに響く風の音、そして雪に包まれた冬の静けさ…。スウェーデンには、まるでおとぎ話のような風景が広がっています。そんな土地だからこそ、妖精や巨人、精霊たちの物語がいまでも語り継がれているのかもしれませんね。
じつは、スウェーデンには「トゥヴスタッル姫」などの不思議な物語をはじめとする豊かな民間伝承が数多く存在しています。そして、それらは古くから信じられていた神話や自然信仰と深くつながっているんです。
というわけで、本節ではこの「スウェーデンの民間伝承」というテーマに向き合い、自然とともにある風土・民話の世界・神話が息づく街──という3つの視点から、楽しく紐解いていきましょう!
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スウェーデンの伝承を語るうえで、まず触れておきたいのがこの国の風土です。
国土の7割以上を森林が占め、大小あわせておよそ10万以上の湖が点在するスウェーデンでは、自然はいつも人々のすぐそばにありました。とくに昔の暮らしでは、自然の変化や不思議な現象に敏感にならざるを得なかったんです。
というのもですね、たとえば深い森に迷い込んで帰れなくなったとき、木々のざわめきや奇妙な足音に、誰か──いや、何かがいるように感じることもあったでしょう。そんなとき生まれたのが「森の精」や「いたずら好きの妖精」などの物語だったわけです。
さらに言うとですね…北欧の冬は、昼間がとても短く、暗い夜が長く続きます。こうした時間のなかで、人々は自然と物語を紡ぐ文化を育んできました。火を囲んで、家族や村人が昔話を語り合う──その中には、時に怖くて、時に不思議で、美しい話がたくさんあったのです。
まさに、自然と暮らしのあいだにある“境目”から生まれた物語なんですね。
さて、ここからはいよいよスウェーデンの民話の世界に入っていきましょう!
スウェーデンの伝承・絵本・民話に登場するキャラクターとしては、トゥヴスタッル姫が有名です。この物語は、スウェーデンの童話誌『Bland tomtar och troll』(“Among Gnomes and Trolls”)に掲載された作品群の一つ。物語では、トゥヴスタッル姫と、森の大エルク(鹿のような大きな動物)との旅が描かれています。
画家・イラストレーターの John Bauer(1882-1918)による挿絵(冒頭に掲載)で知られ、トゥヴスタッル姫を水辺に座らせて泉を見つめる様子は、スウェーデンの美しくも幻想性の強い自然観がよく表現されています。
スウェーデンの伝承に登場するキャラクターも実に多彩。
たとえば、「トムテ(デンマーク・ノルウェーでは“ニッセ”と呼ばれる)」という小さな家の精霊は、こっそり家事を手伝ってくれたり、逆に怒ると物を壊したりします。
また、湖に住む「ネッケン」という水の精霊は、美しい音楽で人々を誘惑し、湖に引きずり込む存在とされていました。
このような話を通して、人々の暮らしと信じてきたものの関係が見えてくるんですよね。
そしてもうひとつ、民間伝承を知るうえで見逃せないのが実際の土地とのつながりです。
首都ストックホルムやウプサラにも、古代神話とつながる名所があるんです。たとえば、ウプサラにはかつてオーディンやトールを祀った神殿があったとされ、現在でもその場所には歴史的な遺構が残っています。
つまり、神話や伝承は「遠い昔の作り話」じゃなく、「今も訪ねることができる、生きた物語」なんですね。
旅をしながら物語に触れる──それがスウェーデンならではの楽しみ方でもあるのです。
というわけで、スウェーデンの民間伝承には、その土地の風土や人々の感覚、信仰や歴史がぎゅっと詰まっています。
トゥヴスタッル姫のような妖精譚も、ニッセやネックのような存在も、自然と共に暮らしてきたスウェーデン人の想像力から生まれたもの。そして今でも、街の中や村の教会、森の中にひっそりと息づいています。
物語を知ると、風景の見え方も少し変わってくるかもしれません。次に森を歩くとき、ふと何かの気配を感じるかもしれませんよ…なんてね。
🌲オーディンの格言🌲
森の静寂に耳を澄ませば、そこには古よりの「囁き」が眠っておる。
トゥヴスタッル姫が泉をのぞき込んだその瞳の奥には、人と自然がまだ切り離されておらぬ時代の記憶が揺れておるのじゃ。
神話とは、ただ神々の記録にあらず──風景に宿る「想いの形」でもある。
スウェーデンの地に息づく語りは、わしらのような神々でなく、精霊や娘たちの物語。
それは静かであたたかく、人々の暮らしに寄り添うもの。
伝説は語られ続けることで、風の中、石の上、水の底に──永遠に息をしておるのじゃ。
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