


ユミルが牝牛アウズンブラの乳を飲む場面
氷の世界ニヴルヘイムと炎のムスペルのはざまに生まれた巨人ユミルが、
牝牛アウズンブラの乳を飲む場面。
性の境界を越える原初存在としてのユミル像を示している。
出典:『Ymir Suckling the Cow Audhumla』-Photo by Nicolai Abildgaard/Wikimedia Commons Public domain
北欧神話に出てくるキャラクターたちって、性格も見た目も本当に多彩で面白いですよね。
そんな中でも、物語のいちばん最初に登場する「ユミル」という存在──覚えていますか?
世界がまだ混沌だったころ、氷と炎がぶつかり合って生まれた最初の生命体。神々よりも前にいた、いわば「世界そのものの起点」なんです。
でもこのユミル、よくよく見てみると、男とも女とも書かれていない。いったい性別はどうなってるの?という疑問が出てくるんですよね。
というわけで、本節では「ユミルの性別」というテーマについて、ユミルの誕生と存在の特殊性・北欧神話における性別の捉え方・“両性具有”の意味──この3つの観点から、ちょっと深掘りしてみましょう!
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ユミルは、ギンヌンガガプ(虚無の裂け目)で氷と炎が出会ったとき、溶けた霜のなかから生まれました。神でも人間でもない、原初の巨人(霜の巨人)として登場します。
しかも、このユミル──ただ生きていただけじゃなくて、眠っている間に体の中から別の生命体を次々と生み出しているんです。
古ノルド語の文献でも、ユミルのことを「彼(he)」とも「彼女(she)」とも書いていません。 つまり、ユミルにははっきりとした性別が与えられていないんですね。
むしろ男でも女でも両方でもない「中性的な存在」として描かれているのがポイントです。
北欧神話では、トールやオーディンのような“いかにも男らしい”神もいれば、フレイヤやイズンのような“女性の象徴”みたいな神もいます。
でも、その一方でロキのように、男でありながら女性に変身して子どもを産むキャラも登場するんです。
北欧神話における性別は、「生物学的な区分」というより、物語の中で何を“するか”という役割の違いとして語られているように見えます。
ユミルの場合は、「世界を生み出す存在」として、男性・女性どちらかに限定されない柔軟なイメージがふさわしいのかもしれませんね。
ユミルが脇の下から男女の巨人を生み、足同士のこすれから子を生んだという神話の描写は、とても象徴的です。
これってつまり、「男でも女でもない一つの存在が、すべての命のもとになった」ってことなんですよね。
世界がまだ整理される前のカオスの中では、性別の区別もまだ意味を持っていなかったのかもしれません。
だからユミルは、性別を超えた「原初の命」そのものといえるわけです。
その命が後に神々によって倒され、その身体から世界が生まれる──まさに北欧神話における「創造の源」です。
というわけで、ユミルの性別は「男性」でも「女性」でもなく、どちらでもあり、どちらでもないが結論ですね。
神話って、現実のルールを超えた存在が描かれていて、そこがまた面白いんですよね!
🌫オーディンの格言🌫
世界がまだ形を持たぬ頃、ギンヌンガガプに芽吹いた命──それがユミルであった。
彼でも彼女でもない、名もなき混沌の体現者。その体より命が溢れ、その乳を牝牛が支えた。
性なき存在は、万象の始源となる。
わしら神々が秩序を与える前、すべては一つであったのじゃ。
ユミルの血が海となり、骨が山となり──その身は今もわしらの足下に横たわっておる。
神々の世がいかに整えられようとも、その根には「名づけられぬ力」が眠っておるのを忘れるでないぞ。
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