北欧神話の「大地の神」といえば?

北欧神話の「大地の神」とは

北欧神話の大地の女神ヨルズは、雷神トールの母であり、命を育む世界そのものを象徴する存在だ。彼女は語られずとも常に神々と人間を支える“根源の力”として息づく。豊穣神フレイやフレイヤとともに、大地への感謝と畏れを体現し、北欧の自然信仰の中心に立つ女神である。

大地と命を育む神々の素顔北欧神話の「大地の神」を知る

大地の女神ヨルズ(Jord)の象徴像

大地の女神ヨルズ(Jord)の象
北欧神話で大地を体現する女神で、トールの母とされる存在を表した彫像。

出典:『Moder Jord, Skavsta』-Photo by TS Eriksson/Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0


 


草原を包む静けさ、山々の力強さ、地面の奥底に潜む命の源──北欧神話では、「大地」は特別な意味を持つ存在です。そこには地面そのものと一体化した神々や、自然の循環に寄り添う精霊たちが登場し、命を支える大地の力を象徴しています。


北欧の人々にとって、大地はただの足場ではありません。すべての命の出発点であり、神々と巨人、そして人間さえもがつながる場所だったのです。


本節ではこの「北欧神話の大地の神」というテーマを、母なる大地ヨルズ・世界を取り囲む大蛇ヨルムンガンド・地の底を治めるドワーフ(ドワーフ)──という3つの視点に分けて、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!



ヨルズ──母なる大地を象徴する女神

まずは、まさに「大地そのもの」ともいえる神格からご紹介しましょう。それがヨルズです。彼女の名前には「大地」「土地」といった意味があり、大地の女神として非常に古くから崇拝されてきた存在なんです。


ヨルズは、オーディンの息子であるトールの母親でもあります。つまり、雷神トールは「大地の子」ということになるんですね。


この点を踏まえると、トールが「空を駆け、地に雷を落とす神」だというのも、どこか意味深に感じられます。彼は空の力と地の力をつなぐ存在だったのかもしれません。


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言葉ではなく沈黙で語る神

ヨルズ自身が登場する神話は多くはありません。でもそれは、彼女が重要でないという意味ではなくて、「語られずとも常にそこにある存在」という性格を持っていたからだと考えられます。


大地はいつも沈黙していますが、命を育て、死を受け入れ、すべてを抱えている──そんな大地のイメージが、そのままヨルズという神格に宿っているのです。


❄️ヨルズの関係者❄️
  • オーディン:ヨルズの配偶関係にある存在(恋人)であり、二人の間に主神トールが生まれる。
  • トール:ヨルズの息子であり、彼女を大地(Jǫrð)そのものの化身として尊ぶ。
  • ノート(夜の女神):ヨルズと同様に自然そのものを象徴する存在であり、神々から尊重される超自然的女性として比較されることが多い。


ヨルムンガンド──大地を囲む巨大な蛇

つぎに紹介するのは、大地そのものというよりも、大地を取り囲む存在。それが、ロキと巨人アングルボザの子であるヨルムンガンドです。


彼は「ミズガルズ蛇」とも呼ばれ、北欧神話において「人間の世界=ミズガルズ」を取り囲むように、大海の中でとぐろを巻いて眠っている巨大な蛇として描かれています。


その身体はあまりにも大きく、しっぽが自分の口に届くほどだと言われていて、まるで大地を円環状に包む結界のよう。


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地と海の境界線にひそむ存在

このヨルムンガンド、ただ寝ているだけの存在ではありません。雷神トールとは宿命の敵同士で、ラグナロクのときには壮絶な戦いを繰り広げることになります。


ヨルムンガンドが目覚めて動き出すことは、大地が揺れ動く災厄の始まりを意味します。つまり、彼は大地の安定を守る“縁”であると同時に、その均衡が崩れたときの“終わり”を象徴しているわけです。


地を囲む巨大な存在──それがどんなに恐ろしくても、そこには自然への畏敬の念と、大地とのつながりを切ってはならないという強い意識が宿っているのです。


❄️ヨルムンガンドの関係者❄️
  • ロキ:父であり、巨人アングルボザとのあいだにヨルムンガンドをもうける。
  • アングルボザ:母であり、フェンリル・ヘルと並ぶ“災厄の三兄妹”のひとりとしてヨルムンガンドを産む。
  • トール:宿敵であり、ラグナロクにおいて死闘の末に相討ちとなる宿命を持つ。


ドワーフ──地の底で働く小さな職人たち

最後にご紹介するのは、大地の奥深くに棲む小さな存在たち、ドワーフ(ドワーフ)です。彼らは岩の中に住み、地中の金属や鉱石を操って、神々のために不思議な道具や武器を作る達人たちなんです。


たとえば、トールのハンマー「ミョルニル」や、オーディンの槍「グングニル」、さらにはフレイの黄金の猪まで、数々の名品はすべてドワーフの手によって作られたとされています。


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地下に宿る大地の技と知恵

ドワーフたちは、太陽の光に当たると石になってしまうといわれるほど、地上よりも地下に親しむ存在。つまり、大地の奥深くに隠された「知恵」「財宝」「技術」の象徴なんですね。


彼らが暮らすのは、硬い岩盤の中や金属の鉱脈の奥──人間の力では到底たどり着けないような場所です。


だからこそ、ドワーフは「地の恵みを司る小さな神々」として、畏れと敬意をもって語られてきたんです。


大地には、目に見えない命や力が眠っている──その考え方を体現しているのがドワーフたちというわけなんです。


❄️神話内のドワーフ一覧❄️
  • ブロックとエイトリ(Brokkr & Eitri / Sindri):名高い鍛冶の兄弟で、ミョルニル、ドラウプニル、グリンガメンなど神々の至宝を鍛えたことで知られる。
  • ドヴァリン(Dvalinn):多くの詩や伝承に登場する重要なドワーフで、ルーンや金細工、魔法知識との関連性を持つ。妖精や死者との境界に関わる存在としても語られる。
  • アンドヴァリ(Andvari):変身能力を持つドワーフで、呪われた指輪「アンドヴァラナウト」と黄金を所有していた。『ヴォルスンガ・サガ』に深く関わる。


 


というわけで、北欧神話における「大地の神々」とは、どれもが土の中や地の果てに宿る静かな力を象徴しています。


ヨルズは無言で命を支える母なる大地、ヨルムンガンドは大地の輪郭を守る蛇、そしてドワーフたちは地の奥に眠る知恵と技術の化身。


目立たないけれど確かな存在感を持つこれらのキャラクターたちが、北欧神話の大地観を静かに、しかし力強く支えているのです。


次に土の上を歩くとき、そこに何千年も昔から続いている物語が眠っているかもしれない──そう思うと、なんだか胸が高鳴りますよね!



🌍オーディンの格言🌍

 

わしらの歩む地、そのすべてに、ヨルズのぬくもりが息づいておる。
トールを産み、命を育み、死者を迎えるその懐は、すべての存在に安らぎと力を与えるものじゃ。
目には見えぬが、忘れてはならぬ神──それが「大地の母」ヨルズよ。
戦のときも、宴のときも、わしらは常に彼女の上に立ち、彼女の恵みを受けて生きておる。
大地に感謝を忘れる者に、真の繁栄は訪れぬぞ。