バルドルの性格が「純真」といわれる理由は?

北欧神話には、戦いや策略に秀でた神々が多く登場しますが、その中でバルドルは異質な存在です。彼は知恵や武勇ではなく、純粋さや光そのものを象徴する神とされ、アース神族の中でも最も美しく、最も優れた神と語られています。そのため、彼はすべての神々から愛される存在でした。

 

しかし、彼の無垢な性格は、やがて北欧神話最大の悲劇へと繋がってしまいます。なぜバルドルは「純真」といわれるのか? その理由を、神話のエピソードを交えて解説していきます。

 

 

バルドルとは?

バルドルは、北欧神話の主神であるオーディンと女神フリッグの息子であり、「光の神」として知られています。彼は、美しさと優雅さを兼ね備えた神であり、知恵や武力よりも誠実さや善良さを象徴する存在でした。

 

光の神としての象徴

バルドルは、その名前自体が「輝く者」を意味し、光や純粋さを体現する神とされていました。彼は闇や邪悪とは無縁で、どんなときでも誠実であり、嘘や裏切りとは無縁の存在でした。そのため、神々や人間たちから絶大な信頼を寄せられていたのです。

 

バルドルの役割は、キリスト教の「救世主」と似ていると考えられることがあります。純粋な存在でありながら悲劇的な運命を迎える点が共通しているためです。

 

すべての者から愛される神

北欧神話の神々の中には、トールのように荒々しく戦う神もいれば、ロキのように狡猾な神もいます。しかし、バルドルは争いとは無縁で、すべての神々から愛される存在でした。

 

彼の優しさや誠実な性格は、神々の世界だけでなく、人間の間でも知られ、北欧神話の「最も善き神」として崇められていました。

 

バルドルの純真さを象徴するエピソード

バルドルの純真な性格を象徴するエピソードとして、彼の「不死身の加護」と「死の予兆」が挙げられます。

 

フリッグの誓いとバルドルの無邪気さ

あるとき、バルドルは自分が死ぬ夢を見るようになりました。この夢を見た母親のフリッグは不安に駆られ、あらゆるものに「バルドルを傷つけないよう誓わせる」という行動に出ました。彼女は、神々、動物、植物、岩、金属にいたるまで、ありとあらゆるものに誓わせ、バルドルは傷つかない存在となったのです。

 

神々はこの事実を面白がり、バルドルに武器や石を投げつけて試しました。しかし、どんな攻撃もバルドルには効かず、彼は無邪気に笑っていました。

 

このときのバルドルの様子こそが、「純真」の象徴といえるでしょう。彼は自分が守られていることを疑うことなく、神々の遊びにも楽しげに付き合っていたのです。

 

バルドルの死とロキの裏切り

しかし、ロキはこの状況を面白く思わず、なんとかバルドルを傷つける方法を探しました。そして、フリッグが唯一誓いを立てさせなかったものがヤドリギであることを知ると、ロキはその枝を使ってバルドルの盲目の弟であるヘズに矢を射させました。

 

バルドルは、自分が傷つくことなどありえないと信じていたため、まったく警戒していませんでした。そして、ヤドリギの矢が彼に命中すると、彼はそのまま死んでしまったのです。

 

このエピソードが示すのは、バルドルがあまりに純粋で、他者を疑うことを知らなかったという点です。彼は自分が不死身であることを疑わず、また、他者の悪意を信じることもありませんでした。この純粋さが、結果的に彼の悲劇へとつながってしまったのです。

 

バルドルの純真さがもたらしたもの

バルドルの「純真さ」は、神々に愛される理由であると同時に、彼の悲劇的な運命を招いた要因でもありました。

 

バルドルの死による世界の変化

バルドルが死んだことにより、アース神族の間には深い悲しみが広がりました。彼の死は単なる喪失ではなく、神々の世界に暗雲が立ち込める象徴的な出来事とされ、ラグナロク(終末の戦い)の前兆となったのです。

 

ラグナロク後のバルドルの復活

しかし、北欧神話には希望もあります。ラグナロクの後、バルドルは冥界から復活し、新しい世界の主となるのです。これは、彼の純粋さが世界を再び光で満たすことを示しているといえます。

 

バルドルは、北欧神話の中で最も純真な神とされています。彼の光のような存在感は神々に愛されましたが、その無邪気さゆえに、自分に向けられた悪意を信じることができず、悲劇的な死を迎えることになりました。

 

しかし、ラグナロク後には彼が復活し、新たな世界を導く役割を担うとされています。このことからも、彼の「純真さ」は、北欧神話における希望の象徴だったといえるでしょう。