


山で海を恋しがるニョルズ(眠るスカジのそばにて)
ヴァナ神族の海神ニョルズが静かに海を望む情景で、
富と繁栄をもたらす守護者としての平和的な性格がにじむ場面。
出典:『Njörd's desire of the Sea』-Photo by W.G. Collingwood/Wikimedia Commons Public domain
海と風、そして豊穣を司る神──それがヴァン神族の長ニョルズです。
彼は、戦いや力ではなく、調和や安らぎの象徴として北欧神話に登場します。そして何より印象的なのが、「争いごとを好まない」そのおだやかな性格。アース神族とヴァン神族の和平を結ぶためにアースガルズにやってきた彼は、まさに“平和の使者”そのものでした。
さらに、妻スカジとの関係にも、彼の内面が垣間見えます。住む場所の違いで心がすれ違いながらも、争わずにそれを受け入れていく──そんな姿勢に、彼の優しさや平和的な精神がにじんでいるのです。
本節ではこの「ニョルズの性格」というテーマを、対立を望まない温和な性格・自然を愛する穏やかな性格・そして受容と共感を重んじる柔軟な性格──という3つの視点から、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!
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ニョルズは、もともとヴァン神族の神さま。
ヴァン神族は、自然や豊穣、平和を象徴する神々で、争いや暴力よりも「調和と循環」を大切にする一族です。
そんな彼がアース神族とヴァン神族との戦争を終わらせるために、和平の使者としてアースガルズへと送られた──というのが、彼の物語のはじまりです。
神々同士の争いという大事件のあと、ニョルズはその誠実な人柄でアース神族に迎えられ、すぐに重要な地位を得ます。
それはきっと、彼の落ち着いた態度や、争いを好まない気質が信頼を呼んだから。
対立の火種を消す存在として、ニョルズは神々のあいだに安定をもたらしたのです。
ニョルズは海と風、航海と漁業の神でもあります。
広くおだやかな海を思わせるその性格は、時に“静かすぎる”とも言われるほど。
彼の好む住まいは、ノアトゥンという海辺の地。海風の音と波のざわめきのなかで、自然と共に生きることが、ニョルズにとって何よりも心地よい暮らしだったのです。
そんなニョルズが妻スカジと結婚したとき、ちょっとした問題が起きました。
スカジは山の女神。自然を愛するという点では同じでも、彼女が望んだのは静かな森と雪山の世界。
しばらく山に住んでみたニョルズでしたが、「海鳥の声が聞きたい」と涙をこぼすほど、海を恋しがるようになります。
このエピソードから見えるのは、自然との結びつきがとても深い、優しく静かな心を持つ神の姿です。
そして最後に注目したいのが、ニョルズの柔軟さや共感力。
スカジとの結婚生活がまさにその象徴です。
「どこに住むか」という問題で対立した二人は、普通ならうまくいかなくなってしまうところですが、ニョルズは争うことなく「互いの土地に交代で住もう」と提案します。
この選択は、どちらかが勝つでもなく、ただ譲るでもない。「お互いの大切なものを尊重し合う」という、とても成熟した決断なんですね。
たとえ後に別居することになっても、それは争いの末ではなく、静かな理解と歩み寄りの結果だった。
ニョルズの性格には、相手の立場を考え、決して力で押し通さない柔らかさがあります。それこそが、彼が“平和的”と言われる大きな理由なのです。
というわけで本節では、豊穣と海の神ニョルズの性格について掘り下げてみました。
争いを避けて和解を選ぶ温和さ、自然との一体感を重んじる穏やかさ、そして異なる価値観にも共感し寄り添う柔軟さ──そんな姿から、ニョルズが「平和の神」と称されるのも納得です。
派手な戦いや冒険の物語には登場しませんが、ニョルズのような神がいるからこそ、北欧神話の世界にバランスと調和が生まれているのかもしれませんね。
🌊オーディンの格言🌊
怒号が飛び交う時代にも、静かに風を鎮める者がいた──それがニョルズよ。
ヴァンの血を引く彼のまなざしは、剣ではなく「和」をもって世界を見つめておる。
スカジとの日々が物語るのは、違いを否定せず「尊重」という舟を出す生き方。
譲ることは、弱さではなく“深き強さ”の証なのじゃ。
海のごとき広き心、風のごとき柔らかき力──それが争いを鎮める鍵となる。
静かなる神ニョルズよ、おぬしの在り方は、わしらに“共に生きる術”を教えてくれるのじゃ。
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