北欧神話に出てくる「馬車」といえば?

北欧神話に登場する神々は、それぞれ特別な乗り物を持っています。その中でも馬車は重要な役割を果たし、神々の移動手段としてだけでなく、彼らの力や性質を象徴するものとして語られています。雷を轟かせる神の戦車、愛と美の女神が駆る優雅な馬車、さらには太陽を運ぶ神秘的な馬車まで、神話の世界にはさまざまな馬車が登場します。

 

では、北欧神話にはどのような馬車が登場し、それぞれどんな意味を持っているのでしょうか。本記事では、神話に登場する代表的な馬車を紹介し、それぞれの特徴を解説していきます。

 

 

北欧神話に登場する馬車

北欧神話には、神々が使用する特徴的な馬車がいくつか存在します。これらの馬車は、それぞれの神の役割や性格を反映し、神話の中で重要な場面に登場します。

 

トールの雷鳴を轟かせる戦車

雷神トールは、二頭の巨大な山羊(タンニグリスニとタンニョースト)に引かれた馬車に乗って移動します。この馬車は空を飛ぶことができ、動くたびに雷鳴のような轟音を響かせます。その音こそが、私たちが聞く雷の正体だとされているのです。

 

また、トールの馬車を引く山羊は、食料としても利用される特殊な存在でした。トールは彼らを食べた後でも、骨を傷つけなければ魔法で蘇らせることができたとされています。この馬車は、まさにトールの破壊的な力と再生の力を象徴するものなのです。

 

フレイヤの猫が引く美しい馬車

愛と美の女神フレイヤは、二匹の巨大なに引かれた馬車を持っています。一般的に馬車といえば馬が引くものですが、フレイヤの馬車は猫によって動かされるというユニークなものです。

 

この馬車はフレイヤの優雅さと神秘的な力を象徴しており、彼女がどこへ行くにも従い、自由に移動することができました。猫は北欧の家庭において重要な存在であり、豊穣や幸運をもたらす動物とされていたため、フレイヤの馬車に猫が使われているのも納得がいきます。

 

ソールの太陽を運ぶ馬車

北欧神話において、太陽は単なる天体ではなく、神格を持った存在とされています。その太陽を運ぶのが、女神ソールの馬車です。この馬車は、二頭の神聖な馬(アーヴァクルとアルスヴィズ)によって引かれ、天空を駆け巡ります。

 

しかし、この馬車はただ移動するだけではありません。太陽の強すぎる熱が地上を焼き尽くさないように、盾スヴァリンが馬車の前に置かれていると伝えられています。これは、太陽の恵みと災厄の両面を表しており、自然界のバランスを象徴しているのです。

 

ナットの夜を運ぶ馬車

太陽があるなら、夜を運ぶ馬車も存在します。夜の女神ナットは、黒い馬ヒリムファクシによって引かれる馬車に乗り、空を駆け巡ります。この馬のたてがみからは夜露が滴り、世界をしっとりと濡らしていきます。

 

ナットの馬車の後を追うように、彼女の息子であるダグ(昼の神)の馬車が進みます。こうして、昼と夜は交互に訪れ、世界の時間の流れが作られているのです。

 

馬車が持つ象徴的な意味

北欧神話に登場する馬車は、それぞれの神の役割や象徴と密接に結びついています。

 

雷と戦の象徴

トールの戦車のように、力強い神の馬車は雷鳴や戦争を象徴することが多いです。この馬車の音は、神の存在を示すとともに、自然界の脅威や力強さを表現しています。

 

豊穣と自由の象徴

フレイヤの猫が引く馬車は、愛、美、豊穣、そして自由を象徴します。猫という自由気ままな生き物が馬車を引くことで、フレイヤの奔放な性格が強調されているのです。

 

宇宙の秩序を司る象徴

ソールやナットの馬車は、昼と夜、光と闇のバランスを維持する役割を果たしています。これらの馬車が天空を巡ることで、世界の秩序が守られているのです。

 

余談:ヴァイキングと馬車の関係

ヴァイキング時代のスカンディナヴィアでは、馬は非常に重要な存在でした。戦場では騎兵として使われることは少なかったものの、農耕や交通手段として重宝されていました。

 

また、馬は神聖な動物とされ、儀式や埋葬の際には馬を犠牲として捧げることもありました。北欧神話の馬車が、単なる移動手段ではなく、神聖な象徴として語り継がれているのも、このような文化的背景が関係しているのでしょう。

 

このように、北欧神話に登場する馬車は、それぞれの神の力や役割を反映した特別なものなのです。空を駆ける雷神の戦車、豊穣をもたらす女神の馬車、そして太陽や夜を運ぶ神聖な馬車——それらは神話の世界観を象徴する存在であり、神々と自然との関係を示す重要な要素だったといえるでしょう。