


太陽を運ぶ馬車を操るソール
二頭の神馬に牽かれた太陽の車で天空を駆け、狼に追われる姿で描かれる。
出典:『The Chariot of the Sun by Collingwood』-Photo by W. G. Collingwood/Wikimedia Commons Public domain
トールがゴートと呼ばれるヤギにひかれた雷の戦車で空を駆けたり、フレイヤが大きな猫たちの力を借りてひらりと空中を進んだり、そしてフレイのそばではまばゆい黄金の猪が輝きながら走っていく──北欧神話には、思わずワクワクする「馬車」の物語があちこちに出てきますよね?
じつはこれらの馬車は、ただの乗り物というよりそれぞれの神さまの性格や役目をそのまま表す象徴のようなものなんです。力強さ、優しさ、豊かさ、光、そして死の世界まで、馬車の姿を見ると「あ、こういう神さまなんだな」と自然に分かってしまうんですね。
本節ではこの「北欧神話の馬車」というテーマを、雷・美・豊穣・太陽──という4つの視点に分けて、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!
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雷神トールは、北欧神話でもとりわけ人気の高い神さまで、彼が乗る戦車は“トールの戦車”と呼ばれています。これを引っ張るのはタンングリスニルとタンングニョーストという2頭のヤギで、彼らが石畳のように固い空を走ると、ゴロゴロと雷鳴が響き渡るんです。まるで巨大な太鼓を鳴らしているみたいなイメージですね。
トールはこの戦車に乗って巨人たちと戦い、世界を守っていました。力が強くてちょっと短気だけど、人間にはすごく優しい神さまなので、彼の馬車は「守りの象徴」として語り継がれたとも考えられています。
ここでちょっと面白いのが、トールは旅先でヤギを食べてしまっても、翌日には魔法のハンマーで骨から元通りにしてしまうんです。
食べても復活する相棒なんてすごい設定ですよね。
そんな不思議な力が、この戦車をより神秘的なものにしているというわけなんです。
愛と美、そして魔法をつかさどるフレイヤは、北欧神話のなかでもひときわ華やかな存在で、彼女の馬車を引くのはなんと巨大な猫たち。北欧では昔から猫が家庭や豊かさを守る象徴として大事にされていたので、フレイヤが猫を相棒にしているのはとても自然なことなんです。
空をするりと滑るように進む猫の戦車は、フレイヤのしなやかさや優雅さをそのまま表しているようで、想像するだけでもちょっと心が温かくなります。
フレイヤは戦いの場では勇者の魂を迎え入れる厳しい顔も持つのですが、彼女の猫の戦車は人を包み込むような優しさを象徴しています。
こうして見ていくと、「馬車」って神さまの性格がそのまま形になったみたいで面白いんですよね。
豊穣と平和の神フレイは、黄金に輝く猪グリンブルスティとともに馬車を走らせる神として知られています。まばゆく光る毛並みは夜を照らし、暗闇の多い北欧世界では希望そのものだったとも言われています。
フレイの馬車は農作の実りや季節の巡りを象徴していて、まるで「大地が目覚める音」を運んでくるような存在でした。
黄金猪はただの動物ではなく、北欧の人々にとって豊かさのメタファーだったんです。
だからこそフレイの戦車は、とても明るくて前向きなイメージで語られ続けたというわけなんですね。
太陽をつかさどる女神ソールは、燃えるように明るい馬にひかせた太陽の馬車で空を走ります。毎日休むことなく天空を駆け抜けるその姿は、人々にとって「昼が来る理由」を説明する大切な神話だったんです。
この馬車の後ろには、みずから太陽を飲み込もうと追いかける狼スコルがいて、ソールは毎日逃げながら空を駆けるという少しスリリングなお話もあります。
夕日が沈んでしまうのは、狼に追いつかれそうになるから、という北欧らしいちょっと怖い説明がまた魅力です。
太陽の馬車は世界のリズムそのものだったというわけなんですね。
というわけで、北欧神話の馬車には、それぞれの神さまの力や性格、生き方がそのまま姿になったような魅力がありました。雷鳴を響かせるトールの戦車、やさしく空を滑るフレイヤの猫の戦車、黄金の光をまとうフレイの猪の馬車、そして太陽を運ぶ神秘的な馬車。
どれも北欧の人々が自然とともに生きていた証のようで、物語を知るほど「なるほど、こういう思いで語っていたんだな」と胸が温かくなるんです。
🐎オーディンの格言🐎
わしらの物語において、車輪の軌跡とはただの移動の痕ではない。
雷を割り、猫を従え、黄金猪を光らせ、太陽と冥界さえ運ぶそれらは、神々の「心」を映す鏡なのじゃ。
ゆえに馬車は“力の姿”であり“魂のかたち”でもある。
トールの轟きには頼もしさが宿り、フレイヤの猫にはやわらかな情が揺れ、わしの息子フレイの輝きには大地への愛が満ちておる。
ソールが駆ける光輪の影には、わしの遠いまなざしが差し込む。
これらの車輪は、九つの世界を結ぶ縁そのもの──止まることなく巡り、次の世へ物語を運んでいくのじゃ。
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