


墓所から現れるドラウグ
北欧神話圏の伝承に登場する不死の亡者ドラウグを描いた一場面。
夜な夜な墓から出て人々を脅かす怖い話として語られてきた存在。
出典:『Norse draugr by Kim Diaz Holm』-Photo by Kim Diaz Holm/Wikimedia Commons CC BY 4.0
世界を救う英雄たち、雷を操る神トール、妖精や巨人が活躍する不思議な冒険…北欧神話って、ワクワクする話ばかりのように思えますよね。でも実は、ぞっとするような怖い話もたくさんあるんです。人を食べる亡霊、闇の中から忍び寄る怪物、不気味な約束事──その正体を知ると、思わず背筋がひんやりしてしまうかも…?
というのも、北欧の神話や民間伝承は、自然の脅威や死への不安、そして人間の恐怖心をとてもリアルに描いているからなんですね。
本節ではこの「北欧に伝わる怖い話」を、不死の亡者ドラウグ・目撃すると死ぬ怪物・忌まわしい妖精の契約──という3つ紹介していきたいと思います!
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まず紹介したいのが、北欧の伝承に登場する不死の亡者「ドラウグ」です。
ドラウグは単なる“蘇った死体”とは違い、生前の強い執着や怒りを捨てきれず、死後すら現世に残り続けてしまう存在なんですね。いわば、自らの墓に固執し続ける“眠ることを拒む死者”として語られています。
彼らは夜になると塚から立ち上がり、財宝や土地を守ろうと徘徊すると伝えられています。特に、生前に財産や名誉への執念が強かった者ほどドラウグになるとされ、近づく者を容赦なく襲いかかることさえあるんです。
恐ろしいのは、彼らが持つ圧倒的な怪力と不死性でしょう。どれほど深く斬りつけられても立ち上がり、時には身体を大きくして襲いくることすらあります。さらに、知性を保ったまま計画的に動く個体の伝承も残されていて、ただの怪物とは言い切れません。
伝承によれば、ドラウグを完全に退治するには、その肉体を切断し、焼き尽くして灰にするしかないといわれています。
中世アイスランドのサガにも、塚を守るドラウグが旅人や村人を襲う場面が描かれ、その執念深さは読む者に強烈な恐怖を与えてきたのです。
次に紹介するのは、北欧の民間伝承に登場する、眠る人間に悪夢を運んでくる怪異「マーレン(Mare)」です。
この存在は“ナイトメア(Nightmare)”という言葉の語源になったともいわれていて、人の姿に似ているものの、どこか得体の知れない不気味さを漂わせているんですね。
マーレンは夜になるとそっと忍び寄り、眠っている人の胸にまたがるように乗りかかると信じられていました。そうして呼吸を圧迫し、身体を動かせなくし、悪夢によって精神を削っていくと語られています。
この怪異がより恐ろしく感じられるのは、その姿をはっきりと捉えられない点にあります。
マーレンに憑かれた人は、朝になっても妙な重さだけが残り、胸の圧迫感をどこか説明しきれないまま一日を迎えることになるんです。まるで、夢と現実の境目をうろつくような、落ち着かない恐怖といったところでしょうか。
スカンジナビアの村々では、窓枠に鉄くぎを打つ、枕の下に刃物を置くといったマーレン除けの風習が伝えられてきました。迷信だと割り切ることもできますが、「ただの夢」と片づけてしまうには、どこか背筋が寒くなる存在でもありますよね。
最後にご紹介するのは、ノルウェーの山中に現れる妖精「フルドラ」の話。
この妖精、ぱっと見は人間の美しい女性のように見えます。でも、よく見ると背中が木の皮のようで、牛のしっぽが生えているんです。
フルドラは、ひとり森に入ってきた男性の前に現れて、美しい声と魅力的な姿で誘惑してきます。
その誘惑に負けてしまったら…もう戻っては来られません。
フルドラに魅入られた者は、永遠に森の奥に囚われてしまう、というのが伝説の筋書き。
あるいは、帰ってきたとしても正気を失っていたり、まったく別人のようになってしまったりするのです。
でも一説には、フルドラが「ちゃんとした結婚」をすれば、しっぽが消えて人間の女性になる、という話も伝わっています。
つまり、ただの怪物ではなく、人間と妖精の“あいだ”にいる、曖昧で切ない存在とも言えるんです。
美しさに心を奪われた人間がどうなるか…という、昔から繰り返し語られてきた“教訓”が、ここには込められているのかもしれません。
というわけで、本節では北欧神話と民間伝承の中から、ぞっとするような「怖い話」を3つご紹介しました。
死んでもなお動くドラウグ、眠りを襲うマーレン、そして誘惑と破滅のフルドラ。
どれも現代のホラー作品にも通じるような、深い怖さと不気味な魅力がありますよね。
神話や伝説って、怖い話だからこそ「忘れられない」力を持っている──そんなふうに思えてくるから不思議です。
あなたも、今夜はひとりで森や墓場には近づかないように…!
🌑オーディンの格言🌑
光の物語があれば、闇の記憶もまた必要じゃ。
わしらの世界には、死してなお歩む者、夢を蝕む影、美しき破滅が息づいておる。
恐れは、人の奥底に眠る「真実」をあぶり出すのじゃ。
ドラウグの執念、マーレンの囁き、フルドラの誘惑──いずれも、忘れられぬ教訓を宿しておる。
それらは神々の物語に添えられた影、いや、影そのものが物語の一部なのじゃ。
夜に語られる伝説は、ただ人を怯えさせるためではなく、「見えざる世界」の存在を思い出させるためにある。
恐怖は過去のものにあらず。今も風の中、眠りの隙間、森の奥に潜んでおる。
だからこそ、わしは言う──語り継げ。闇に名を与えよ。それが世界を照らす第一歩となる。
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