


巨人がアースガルズの城壁を築く場面
神々と契約して要塞の壁を築いた名も知られぬ巨人。
名馬スヴァジルファリとともに工事を進め、完成間近まで迫ったと語られる。
出典:『Master builder by Robert Engels』-Photo by Robert Engels/Wikimedia Commons Public domain
神々の国アースガルズを守るために建てられた「巨大な石の壁」、それを一夜にして築き上げようとした謎の巨人の話、知っていますか?しかもその工事には、人間では到底手に負えない驚異的な怪力の馬が使われていたんです。さらには、あのロキが思いもよらぬ方法で介入し、神々との契約の行方を大きく変えてしまったんですよ!
じつはこのエピソード、北欧神話の中でも特に「知恵と策略」が光る一幕として語り継がれていて、登場人物たちの関係性もめちゃくちゃ面白いんです。
本節ではこの「北欧神話の壁を建造した巨人」というテーマを、謎の巨人・驚異の馬・そして変身する神──という3つのキャラクターを軸にして、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!
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物語の舞台は、神々の住む世界「アースガルズ」。ここを守るために、強固な壁が必要だと考えた神々のもとに、ひとりの石工を名乗る巨人がやって来ます。
彼はこう提案するんです。「私がたったのひと冬のあいだで、この城壁を完成させてみせよう。その代わり、報酬としてフレイヤ(愛と美の女神)、太陽、月をいただく」と。
ちょっと図々しい条件ではありますが、神々はこれを了承──ただし「誰の助けも借りずに工事を行うこと」という条件をつけます。巨人はそれでも承諾し、契約成立。ところがロキの入れ知恵により、「自分の馬だけは使ってよい」という特例が認められてしまうのです。
しかしふたを開けてみると、この巨人、なんと魔法のごとく力強い名馬を使って、日々すさまじいスピードで石を運んでいくんです。
ここが神話の面白いところ。この巨人、実はただの職人ではなく、後に「フリムスル族」という古代の巨人たちの一人であることが発覚します。つまり、アースガルズに忍び込んで太陽・月・フレイヤを奪おうとした策略家だったのです。
神々はこのままではマズいぞ…!と焦りはじめます。
この工事の鍵を握っていたのが、巨人が連れていた驚異的な馬「スヴァジルファリ」です。
とにかく力がすごい。重たい石をいくつも運び、巨人とコンビで壁をどんどん築いていきます。夜通し働き、神々の想像を超えるスピードで壁は完成へと近づいていく──このままでは、契約通りに神々がフレイヤを渡さなければならない状況になってしまうんです。
当然、神々は怒り心頭。「このままだと大切な神々の宝を奪われてしまう!」と。
ここで登場するのが、神々の中でもとにかく“抜け目ないトリックスター”として知られるロキです。神々は彼にこう命じます。「お前が何とかしろ」と。
スヴァジルファリを止めない限り、工事は完成してしまう。そこでロキは、信じられない変身を使ってこの馬の心をかき乱そうとするのです…。
ロキ(Loki)は、北欧神話の中でも特に“何でもアリ”な神様。今回の騒動でも、彼の大胆かつ突飛な作戦が炸裂します。
なんとロキ、美しい雌馬に変身してスヴァジルファリの前に現れたんです!スヴァジルファリはたちまち夢中になり、巨人を置き去りにして駆け出してしまいます。
工事はストップ。契約違反です。怒った神々は、正体を明かした巨人を雷神トールがミョルニルで粉々にしてしまいました。
ところがこのエピソード、実はもうひとつ信じられない後日談があります。
ロキが変身した雌馬は、スヴァジルファリと「関係」を持ち、その結果スレイプニルという足が8本ある神の馬を産んでしまうのです。そしてこのスレイプニルは後に、主神オーディンが愛馬として使うことになります。
ロキは“男神でありながら、出産経験のある母”という前代未聞の存在に。この話を知ったときは、さすがに度肝を抜かれましたね…。
というわけで、「壁を建造した巨人」の話は、ただの建築ドラマではありません。
アースガルズの防衛と巨人の野望、そしてロキのとんでもない策略が交差する、北欧神話の中でも屈指のカオスなエピソードだったんです。
巨人、名馬、そして変身する神──それぞれが持つ特異な力と欲望がぶつかり合って、こんなにおかしくて、だけど妙に納得できてしまう物語が生まれたというのが、まさに北欧神話の面白さなんですよね。
🏰オーディンの格言🏰
城壁とは、ただ石を積むだけでは築けぬものじゃ。
そこには「信義」と「狡智」、そして「犠牲」の影が刻まれておる。
巨人が築き、ロキが乱し、トールが砕いた──すべてがアースガルズの礎となったのだ。
秩序は混沌から生まれ、欺きの中にも真理が潜む。
わしら神々もまた、完全ではない。
ゆえにこそ、世界は動き、物語は紡がれるのじゃ。
契約も策略も、最終的には“運命の織り糸”の一部。
その糸を操るのは、誰でもない──わしら自身の「選び」なのだ。
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