北欧神話の「光の神」といえば?

北欧神話の「光の神」とは

北欧神話の光の神バルドルは、美と清らかさを備えた存在で、善と再生の象徴として語られている。ロキの策略によって命を落とすが、その死は世界の終末ラグナロクの始まりとなり、やがて再生の時に蘇ると予言される。光は消えても必ず戻る──それが北欧神話の希望の本質であるといえる。

輝きと希望を象徴する存在たち北欧神話の「光の神」を知る

バルドル(美と光の神)の肖像

光の神バルドル
容姿の美しさと清らかさで知られる神。
光の神としての側面を強調する作品。

出典:『Balder the Good by Jacques Reich』-Photo by Jacques Reich/Wikimedia Commons Public domain


 


死を超えてなお輝くバルドルの物語、雷と戦いの勇気を体現するトール、そして神々の王オーディンの深い知恵──北欧神話には「光」に関わるキャラクターたちが存在します。でも、“光”ってただ明るいだけの意味じゃないんです。


じつは、北欧の神話における「光の神」は、希望・秩序・再生といったテーマを背負っていることが多いんです。太陽や雷、予言など、世界を導く光のような存在たち。


本節ではこの「北欧神話の光の神」というテーマを、バルドル・トール・オーディン──という3人の神に注目して、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!



バルドル──死を超えて輝く希望の神

まず紹介したいのが、まさに「光の神」と呼ぶにふさわしい存在、バルドル(Baldur)です。


バルドルは、オーディンとフリッグの息子で、美しさと光に満ちた神。すべての神々から愛され、穏やかで優しく、争いを好まない平和の象徴でもありました。


そんな彼に死の予兆が現れたことで、母フリッグはあらゆるもの──石や火、水、動物など──に「バルドルを傷つけない」と誓わせました。


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闇の中でこそ輝く光

それでも、たったひとつ「ヤドリギ」だけが誓いから外れていたため、ロキの策略により、盲目の兄ホズがヤドリギの枝を使って彼を殺してしまいます。


けれど、バルドルの死は、世界の終わり=ラグナロクの到来を告げる出来事でもありました。そして、終末のあと、再生した世界にはバルドルが戻ってくるといわれています。


つまり、彼はただの光の神ではなく、死と再生を通じて「希望」を象徴する存在なんですね。


❄️バルドルの関係者一覧❄️
  • オーディン:バルドルの父であり、光の神としての息子を深く愛した。バルドルの死はオーディンにとって最大の悲劇であり、ラグナロクの予兆ともなった。
  • フリッグ:バルドルの母で、息子を守るため世界中の万物に「害を与えない」誓いを立てさせた。しかしヤドリギだけは誓わせることを忘れてしまった。
  • ナンナ:バルドルの妻で、夫の死を悲しみのあまり後を追うように命を落とした。二人の愛は神話屈指の純愛として語られる。
  • ホズ:盲目の兄弟で、ロキの策略によってヤドリギの槍(または矢)を投げ、バルドルを殺してしまった悲劇的存在。
  • ロキ:バルドル死の真の黒幕であり、ヤドリギを使った奸計で光の神を死に導いた。神々の秩序崩壊の引き金を引いた存在である。
  • ヘル:死者の国の支配者で、死後のバルドルを迎え入れた。返還交渉で「すべての者が泣けば返す」と条件を出し、世界的試練を与えた。
  • ヘルモーズ(ヘルモッド):バルドルを救うため冥界へ向かい、ヘルに嘆願した兄弟。彼の旅はバルドルへの深い絆を象徴する。


トール──雷と勇気の守護者

次に紹介するのは、雷神トール(Thor)。彼のことは知ってる人も多いかもしれませんね。


トールは、巨人たちとの戦いにおいてアース神族を守る最強の戦士。彼が持つ魔法のハンマー「ミョルニル」は、雷を呼び、敵を打ち砕く力を持っていました。


北欧の人々にとって、雷は自然の怒りであり、同時に祝福でもある存在。雨をもたらし、農作物を育てる大切な恵みだからです。


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破壊の力の中に宿る光

実は、トールもまた「光の神」としての側面を持っています。それは、闇や混沌を力強くはらう「守護の光」という意味での光。


彼は決して穏やかな神ではないけれど、村人たちにとっては頼りになる存在でした。雷の轟きが聞こえたとき、「あ、トール様が巨人をやっつけてるんだ」と思われていたんですね。


ラグナロクでは世界蛇ヨルムンガンドと戦い、壮絶な最期を遂げますが、最期の瞬間まで光をもたらす“戦う神”として語り継がれています。


❄️トールの関係者一覧❄️
  • オーディン:トールの父であり、アース神族を統べる主神。知識と策略の神で、武力と守護を象徴するトールと対照的な役割を持つ。
  • シフ:トールの妻で、黄金の髪をもつ豊穣の女神。彼女の髪がロキに切られた事件は、後に名宝鍛造へとつながる重要なエピソードとなった。
  • モディとマグニ:トールの息子たちで、父の強大な力を受け継ぐ若き神々。ラグナロク後の新世界における存続を担う存在とされる。
  • ウル:トールの義理の息子とされ、弓術・狩猟・冬の領域を司る神。家族的関係を通じてトールに近く、アース神族の戦力にも貢献する。
  • ロキ:トールと行動を共にすることが多いが、度重なる悪戯で混乱を引き起こす存在。旅の道中での二人のやりとりは北欧神話の代表的エピソードを形成する。
  • ヘイムダル:アース神族の番人で、トールと同じく神界を守る重要戦力。両者はアースガルズの防衛において互いを補完する立場にある。
  • ヨルムンガンド:トール最大の宿敵であり、ラグナロクでは互いに相討ちとなる運命を持つ。彼らの対立は北欧神話最大の因縁とされる。


オーディン──知恵で導く神々の王

最後に取り上げたいのが、神々の父にして支配者、オーディン(Odin)


一見、戦いや魔法の神として知られる彼ですが、実は「光の神」という側面もあります。それは、知恵や予言、言葉の力といった「精神的な光」を象徴しているからなんです。


オーディンは知識を求めて、ミーミルの泉と引き換えに自らの片目を犠牲にしました。さらには、自らを世界樹ユグドラシルに吊るし、死にかけることで「ルーン文字(知恵の魔法)」を手に入れたのです。


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光と闇を内包する王

彼は戦の神である一方、詩や魔法、そして運命を見通す力を持ちます。つまり、「目に見える光」ではなく、「目に見えない導き」としての光を持っているわけです。


ラグナロクでは巨大な狼フェンリルに飲み込まれてしまいますが、その知恵は次の時代に引き継がれるとされています。


オーディンの光は、未来を照らす“言葉と知識の光”。だからこそ、彼もまた「光の神」の一柱として見ることができるのです。


❄️オーディンの関係者一覧❄️
  • フリッグ:オーディンの正妻で、予知と家庭を司る女神。神々の運命に深く関わり、オーディンの判断に助言を与える存在。
  • トール:雷神でありオーディンの息子。圧倒的な武威でアース神族を守護し、父の大戦略を支える主戦力となる。
  • バルドル:光の神でオーディンの息子。彼の死はオーディンの心を深く傷つけ、ラグナロクの到来を告げる重大事件となった。
  • ロキ:義兄弟の契りを結んだが、後に神々の敵となるトリックスター。バルドル殺害など多くの混乱をもたらし、最終的にはラグナロクで敵対する。
  • フギンとムニン:オーディンに仕える二羽の鴉で、世界中の情報を集めて主へ伝える。思考と記憶を象徴し、オーディンの知の源となる。
  • ミーミル:知恵の泉の守護者で、オーディンに深淵の叡智を授けた存在。死後も首となり、神々の最重要の助言者であり続けた。
  • ワルキューレ:オーディンの命を受けて戦死者を選びヴァルハラへ導く戦乙女たち。オーディンの軍勢形成に欠かせない存在。
  • ヴィリとヴェー:オーディンの兄弟で、世界創造において共にユミルを討った。三兄弟は宇宙の秩序構築を担った根源的存在として語られる。
  • フェンリル:ロキとアングルボザの子で、オーディンが最も恐れた存在。ラグナロクにおいてオーディンを呑み込む運命をもつ宿敵であり、彼の死の象徴として語られる。


 


というわけで、本節では北欧神話の「光の神」たち──バルドル・トール・オーディンを紹介しました。


バルドルは愛と美、そして再生の希望を体現する存在。トールは雷の力で人々を守る、頼れる戦士神。そしてオーディンは、知恵と詩の力で未来を導く“静かな光”。


それぞれの光のかたちは違っていても、闇に抗い、世界を導こうとする「希望の象徴」であることに変わりはありません。


北欧神話の「光の神」は、ただ明るいだけじゃない、深い魅力にあふれた存在たちなんですね。



🌞オーディンの格言🌞

 

光とは、ただ照らすだけの力ではない──闇の中にあってこそ、その尊さが際立つのじゃ。
バルドルよ……わしがこの世で最も美しきと感じた神。
その死が訪れたとき、九つの世界は声を失った。
されど、光は沈んでも、消えはせぬ。やがてまた昇り、新たな時代を照らす
バルドルの帰還は、滅びの向こうにある再生の約束。
希望とは、終末を越えてもなお語られる名のこと。
ゆえに──光を失うことを恐れるでない。それは、次の夜明けへの扉なのじゃ。