


蛇を海へ投げ込むオーディン
やがて世界を取り巻く大蛇ヨルムンガンドへと成長する神話のはじまりを示す。
出典:『Loki's children by Frolich』-Photo by Lorenz Frolich/Wikimedia Commons Public domain
ロキの子として生まれた巨大な赤ん坊、見ただけで背筋がゾクッとするほどの大蛇へと育つ姿、そしてオーディンがその蛇をつかみ上げ、海の果てへ放り投げる決定的な瞬間──「ヨルムンガンドの投棄」は、北欧神話の中でも迫力と不気味さが共存するエピソードです。
しかし「なぜ神々は赤ん坊をそんな扱いにしたのか?」「海に捨てられたあと、どうして世界を囲む大蛇になったのか?」と、気になる点がたくさんあるんですよね。
この物語は、神々と巨人族のあいだに流れる緊張関係、そして“運命は避けられない”という北欧神話らしい世界観を示す重要な場面でもあります。
本節ではこの「ヨルムンガンドの投棄」伝説を、主な登場人物・物語のあらすじ・その後の影響──という3つの視点に分けて、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!
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この物語の中心にいるのが、巨大な大蛇ヨルムンガンド。彼は悪戯の主ロキと、巨人族の女アンガルボザとの子どもとして生まれました。兄に狼のフェンリル、妹に冥界の女王ヘルがいます。
この三兄妹は、生まれながらにして“世界を揺るがす存在”として知られていたんですね。
そして、ここに登場するのが神々の主オーディン。彼は未来を見通す力を持つため、ロキの子どもたちが後に神々の敵となることを感じ取っていました。
神々がヨルムンガンドを見ると、すでに普通の赤ん坊の姿ではなく、体の一部が蛇のように伸び、どこまで成長するのかわからない不気味さがあったと言われています。
「このまま成長させれば、世界が危うい」
そう判断したオーディンの決断が、この物語の核心を動かしていきます。
ロキの子どもたちが生まれたと知ったオーディンは、「このままでは神々に災いが降りかかる」と考え、三兄妹をそれぞれ異なる場所へ追放することを決めます。
ヨルムンガンドを手に取ると、その身体はすでに重く、ぬらりとした冷たさがあり、赤ん坊とは思えないほどの力を秘めていました。
そこでオーディンは、彼をミッドガルズを囲む大海へ投げ込みます。
海に落ちたヨルムンガンドは、そのまま海流にのまれるかと思いきや、驚くべき速さで成長を始めます。
やがて彼の身体は海の底から空へ届くほど巨大になり、ついには自分の尾をくわえて世界を一周する大蛇となりました。
こうして“ミッドガルズを囲む大蛇”ヨルムンガンドが生まれたというわけなんですね。
ヨルムンガンドの誕生と投棄は、そのまま北欧神話の未来を決める重要な出来事になりました。
海の底で成長した大蛇は、世界を取り囲む存在となり、その姿を見るだけで「終末が近づいている」と言われるほどの象徴的な存在に変わっていったのです。
そして、もっとも大きな影響を与えたのがラグナロク。
未来を見通したオーディンは、ヨルムンガンドがやがて雷神トールと最後の戦いを繰り広げることを知っていました。
オーディンが海へ投げ捨てたことで、ヨルムンガンドは成長し、強くなり、世界そのものを締めつける存在となります。
そしてラグナロクのとき、大蛇は海から姿を現し、毒気で空を黒く染め、トールと死闘を繰り広げることになるのです。
トールは大蛇を討ち取りますが、同時に大蛇の毒を吸って倒れる運命にある──つまり、“投棄”という行為が、最後には神々の死を呼び込む結果にもつながっていくのです。
というわけで、「ヨルムンガンドの投棄」は、北欧神話の運命観を象徴する大切なエピソードでした。
赤ん坊の姿に見えながら、すでに巨大な力を秘めていたヨルムンガンドを、オーディンが海へ投げ込む──その一瞬から、世界の輪郭と終末の物語が動き始めたのです。
そして、世界を取り囲む大蛇となったヨルムンガンドは、北欧神話の“世界そのものの境界”を象徴する存在として、いまも語り継がれています。
神々の決断が未来を変え、未来が神々を追い詰める──そんな不思議でダイナミックな世界観を、この物語は教えてくれるんですね。
🐍オーディンの格言🐍
災いの芽は、幼きうちに摘むべきか──それとも、見守るべきか。
わしはロキの子らを見て、未来に潜む破滅を読み取った。
ゆえに決断したのじゃ、海へと大蛇を放ち、死の国へと娘を追い、狼を鎖に繋ぐことを。
だが、遠ざけたものほど深く育ち、いずれ運命を噛み砕く。
ヨルムンガンドは海を巡り、尾をくわえながら、じっと時を待った──それがやがて、雷神トールとの相討ちへと至る。
わしの決断は正しかったのか──その答えもまた、ラグナロクの焔の中にあるのじゃろう。
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