


北欧神話の九つの世界の概念図
ユグドラシルを中心に語られる宇宙観を示す模式図。
アースガルズやミズガルズ、ニヴルヘイムなど九界の配置を表す。
出典:『Nine worlds of Norse mythology』-Photo by Rehua/Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0
私たちの世界は、地球が丸くて宇宙の中に浮かんでいる──という風に習いますが、昔の人たちは、まったく違う「世界のかたち」をイメージしていたんですよね。
アースガルズやミズガルズ、ニヴルヘイムなど、神さまや人間、巨人や死者たちがそれぞれ暮らす世界があって、それをつないでいるのが巨大な木、ユグドラシル!なんだかRPGのマップみたいでワクワクしませんか?
太陽は戦車で空を駆ける乙女が引っ張り、月もまた別の存在が動かしている──そんなふうに、天体も人格をもって動いているというのが、北欧神話の宇宙観なんです。
というわけで、この章では「北欧神話の宇宙観とは」というテーマを、ユグドラシルと九つの世界・太陽と月が動く理由・星と惑星のとらえ方──という3つのポイントに分けて、いっしょに見ていきましょう!
|
|
|

世界樹ユグドラシルとその周囲の生き物を描いた挿絵
多様な世界が一本の樹を軸に結びつく宇宙観を象徴する作品
出典:『The Ash Yggdrasil』-Photo by Friedrich Wilhelm Heine/Wikimedia Commons Public domain
北欧神話の宇宙は、まず巨大な世界樹「ユグドラシル」を中心に広がっています。
この木の幹や根、枝の先に、それぞれ異なる性質をもった世界がくっついていて、全部で九つの界(世界)があるとされています。
神々の住むアースガルズ、人間たちの住むミズガルズ、氷の世界ニヴルヘイム、火の国ムスペルヘイム、そして巨人族の国ヨトゥンヘイムなどなど──想像しただけで胸が躍るような名前が並びますよね。
この世界樹は、ただの木ではありません。
枝や根が、それぞれの世界を行き来できる「道」や「橋」のような役割を果たしているんです。
たとえば、神々が使う虹の橋「ビフレスト」は、アースガルズとミズガルズをつないでいますし、根っこの下には死者の国ヘルヘイムがあるとも言われています。
九界の全体像は、上・中・下の三層に分かれた立体的な宇宙モデルとして語られることが多く、中心に立つユグドラシルが全体のバランスを保っている、まるで“命の柱”のような存在なんですね。

太陽の女神ソールと月の神マーニが狼に追われる挿絵
北欧神話では、姉のソール(太陽)と弟のマーニ(月)が各々の戦車で天空を巡り、狼スコルとハティに絶えず追われる関係として語られる。日食や月食はこの追走の寓話で説明され、ラグナロクでは狼が両者を呑み込むとされる。
出典:『The Wolves Pursuing Sol and Mani』-Photo by John Charles Dollman/Wikimedia Commons Public domain
北欧神話では、太陽も月もそれぞれ意思をもった存在として描かれています。
空にある光の玉ではなく、馬車に乗って空を走っている神聖な存在なんですよ。
太陽は「ソール」という女性の姿で、彼女の引く馬車が昼を連れてきます。
月は「マーニ」という男性で、同じように馬車に乗って夜の空を駆けています。
実は、ソールもマーニも、のんびり旅しているわけではありません。
彼らは空を駆ける狼たちに追われているんです。
この狼たちは「スコル」と「ハティ」と呼ばれていて、もし太陽や月を捕まえたら、空から消えてしまうと信じられていました。
だからこそ、太陽と月は止まることなく走り続け、私たちに昼と夜をもたらしてくれるんですね。
そして、神々の黄昏ラグナロクの日には、これらの狼たちがついに太陽と月を食べてしまうとも言われています。
こんなふうに、「天体が動く理由」を物語で語るところに、神話ならではの面白さがあります。

北欧神話で夜を司る女神ノート
星々は闇を飾る光として語られ、夜の運行とともに世界を包むとされる。
出典:『The Night (Natten)』-Photo by Peter Nicolai Arbo/Wikimedia Commons Public domain
北欧神話の中では、星や惑星そのものについての詳しい記述は多くありませんが、「夜空に光るもの」は神聖な存在のしるしとして考えられていました。
星空は、神々が住まう高天界の輝きの一部ともされ、特に戦士たちが死後に向かうヴァルハラの天井にちりばめられている宝石が、星になったという伝承もあるんです。
惑星のように目立つ星は、時に神々の象徴として扱われていたとも考えられます。
たとえば、戦の神ティールが象徴する光の星、金星など──これは、後世の解釈によるところも大きいですが、星々が“ただの光”ではなく、神話的な意味をもっていたことは確かです。
また、「星の動きが未来を教えてくれる」と考える人たちもいて、神々が星を使って運命を予言するシーンもあったとされています。
北欧神話における宇宙観は、世界樹から天体まですべてが生きていて、物語と深くつながっている──そんな魅力にあふれた世界なんですね。
🌌オーディンの格言🌌
この世は、幹と枝に世界を抱く一本の木──名をユグドラシルと申す。
わしらの血脈は、その枝葉に宿り、九つの世界をめぐって物語を紡いできたのじゃ。
空に駆ける太陽と月、狼に追われながらも天を照らし続ける者たち……
すべての天体は“生きており”、その動きには物語が脈打っておる。
星はただ光るだけでなく、時に神々の意思を映し出す鏡ともなる。
この宇宙は静止した図ではなく、終わりなき変化とつながりの輪──それこそが「わしらの世界」の真なる姿なのじゃ。
|
|
|
