


愛馬スレイプニルにまたがるオーディン
スレイプニルは、ロキが変身した雌馬と巨人の馬スヴァジルファリとの間に生まれた馬とされる。
出典:『Odin holding Gungnir atop Sleipnir』-Photo by Lorenz Frolich/Wikimedia Commons Public domain
神話の世界では、神さまたちが空を飛んだり、海を渡ったり、地の果てまで旅するのって、当たり前のことのように描かれますよね。
でも、それを可能にしているのが神々の乗り物たち。馬車や動物、空飛ぶ船まで、とんでもない性能を持ったものばかりです。それぞれがただの移動手段ではなく、神の力や性格、さらには宇宙の仕組みにまで関わっているのが、北欧神話の面白いところなんです。
特に有名なのが、あの「脚が8本ある馬」──ロキと巨人の馬から生まれたスレイプニルですよ!
というわけで、この章では「北欧神話の乗り物たち」をテーマに、神々の権威を示す神聖な乗り物・自然界の力と結びついた霊的存在・異界と運命をつなぐ象徴的な乗り物の3つに分けてご紹介していきます!
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トールの戦車を引くタンニグリストとタンニョースト
巨人ヒミルとの一件の後、復活させたヤギのうち一頭が足を痛めていることに気づく場面。
出典:『Tanngrisnir and Tanngnjostr by Frolich』-Photo by Lorenz Frolich(1820-1908)/Wikimedia Commons Public domain
神さまたちの乗り物は、まさにその神格や力の象徴です。
たとえば、雷神トールの乗る馬車は、2頭のヤギ──タンングリスニルとタンニョーストルによって引かれています。この馬車は空を走り、轟音とともに稲妻をもたらすんです。
トールの馬車のヤギたちは、戦いの後に食べられ、また次の日には復活するという不思議な能力まで持っています。
それぞれの乗り物が、神の力の一部であり、神話の中で生きている──そんなふうに考えると、ただの動物や乗り物とは思えなくなってきますよね。
また、豊穣の女神フレイヤは、猫たちが引く馬車に乗って移動します。この馬車もまた、フレイヤの美しさと自由さ、そして魔術的な性格を表す乗り物なんです。

魔法の船スキーズブラズニル
ドワーフ(イーヴァルディの息子たち)が作った宝物のひとつで、
必要ない時は懐に収まるほど小さく畳め、どんな風でも順風で航行できるとされる。
出典:Photo by Elmer Boyd Smith/Wikimedia Commons Public domainより切り抜き
北欧神話では、自然の力と乗り物は強く結びついています。
たとえば海神ニョルズの息子、フレイが持つのは、空も海も走れる不思議な船「スキーズブラズニル」。これはドワーフが作った傑作で、使わないときはポケットサイズにたためるというのだから驚きです。
スキーズブラズニルは、ただ移動するだけでなく、「風を操り、海を越える力」の象徴でもあるんですね。
同じく、空を駆ける乗り物としては太陽の馬車も欠かせません。太陽の女神ソールが馬車に乗って天を走るとき、あまりに光が強すぎて世界が焼けそうになるため、スヴァリンという盾で熱を抑えている──そんなエピソードもあります。
こうしてみると、乗り物は神々が自然の力を制御しながら使いこなすための“道具”でもあったんですね。

八脚馬スレイプニルでヘルヘイムへ向かうオーディン
バルドルの死を予言する不吉な夢の真相を探るため
オーディンが八脚馬スレイプニルに騎乗して冥府ヘルヘイムへ向かう場面。
出典:詩篇「Baldrs draumar(バルドルの夢)」の挿絵-Photo by W. G. Collingwood/Wikimedia Commons Public domain
北欧神話の乗り物の中には、この世とあの世をつなぐ特別な意味を持つものもあります。
その代表が、主神オーディンの乗る馬スレイプニルです。脚が8本あるこの馬は、空を駆け、大地を越え、死者の国ヘルヘイムにまで自由に行ける存在。
実はこの馬、ちょっと変わった生まれ方をしているんです。
ロキが変身した雌馬が、巨人の持つ優れた馬「スヴァジルファリ」を誘惑して生んだ子どもがスレイプニル──つまり、ロキが「お母さん」になったという驚きのエピソードです。
そうやって生まれたスレイプニルは、常識の境界をこえた存在であり、「どこへでも行ける」という自由の象徴でもあります。
オーディンがこの馬に乗って異界を旅する姿は、死や運命、魔術といった深いテーマと密接に関わっていて、まさに“神話の知恵の結晶”と言えるでしょう。
そんなふうに考えると、北欧神話の乗り物は、ただの乗り物ではなく、神々の本質や世界観そのものを体現する存在なのかもしれませんね。
⛵オーディンの格言🐎
この世界に“旅”がある限り、わしらは歩みを止めぬ。
神々の乗り物とは、ただ速く進むための手段ではないのじゃ。
空を駆け、海を越え、死の彼方までも到達する──それは知恵と覚悟の象徴よ。
スレイプニルの八本の脚は、わしの問いを運び、答えなき境界を踏み越える。
トールの雷鳴も、フレイの帆風も、フレイヤの優雅な足取りも──皆、神々の“在り方”そのものを映し出しておる。
道具にして理念、動力にして詩。
移動の先に何を見るか、それが“神話の乗り物”というものなのじゃ。
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