北欧神話の「巨人」とは

炎の剣を掲げる巨人スルト
ラグナロクで世界を炎で包む火の巨人。
神々に最後の審判をもたらす存在として描かれる。
出典：『The giant with the flaming sword』-Photo by John Charles Dollman／Wikimedia Commons Public domain

神話の世界には、しばしば「巨人」と呼ばれる不思議な存在が登場しますよね。
彼らはただ大きいだけじゃなく、神々と戦ったり、助け合ったり、ときには家族になったりと、ものすごく複雑な立ち位置にいるんです。

北欧神話に出てくる巨人たちは、ちょっと特別です。彼らは混沌の力そのものだったり、自然の象徴だったり、なかには神々と同じくらい賢い存在もいます。
そして何より面白いのが、彼らが世界の始まりと終わりの両方に深く関わっているという点です。

というわけで、この章では「北欧神話の巨人たち」を、宇宙創造に関わる原初の巨人・自然と対立する混沌の巨人・知恵と境界の巨人という3つの視点から整理して紹介していきます！
神々とは違う角度から世界を見る視点が、きっと見つかるはずですよ！

原初と創造の巨人たち──宇宙の根源を体現する存在

オーディンたちがユミルの身体から世界を創造する場面
北欧神話の世界の起源を描いた挿絵。
神々が巨人ユミルの身体を材料に天地を形づくる瞬間。
出典：『Odin and his brothers create the world』-Photo by Lorenz Frolich／Wikimedia Commons Public domain

神々がまだいなかったころ、世界には氷と火、そしてそのあいだの霧の空間が広がっていました。
その中から生まれたのが、最初の巨人ユミルです。

ユミルはただ一人の存在から、自分の体からほかの巨人たちを生み出し、世界に命の原型をもたらしました。

ユミルの身体から世界ができた

最終的に神々──オーディンたちは、この巨大なユミルを倒して、その体から世界を作ることになります。
骨は山に、血は海に、髪は木々に、そして頭蓋骨は空になりました。

つまり北欧神話において、最初の巨人は「世界そのもの」になった存在なんです。

こうした物語からもわかるように、巨人たちは神々よりも先にいた原初の存在。
その力は神々より大きいけれど、コントロールできない混沌として描かれています。

そして、このユミルの子孫が“ヨトゥン”──つまり巨人族と呼ばれる存在たちです。
神々はその子孫と、時に争いながら、時に手を取り合って生きていくことになるんですね。

自然と混沌の巨人たち──世界の秩序に抗う原初の力

巨人スクリーズミルに立ち向かうトール
荒涼としたヨトゥンヘイムを進むトールの前に、山のような巨人スクリーズミルが立ちはだかる。
巨人族の住まう世界のスケール感と不気味さを印象づける場面。
出典：『Louis Huard - Giant Skrymir and Thor』-Photo by Louis Huard／Wikimedia Commons Public domain

北欧神話の巨人たちは、とても自然的な存在です。
山や雷、氷や火など、自然のさまざまな力が人格を持って登場する──そんなイメージです。

とくにヨトゥンヘイムという世界に住む巨人たちは、アース神族の住むアースガルズと敵対関係にあることが多く、しばしば世界の秩序に逆らう力として描かれます。

代表的な「自然の巨人」たち

たとえば、スルトは火の巨人で、ラグナロクのときに炎の剣をもって世界を焼き尽くします。
また、フリームスカルズは雷と嵐を操る巨人として、トールの宿敵として登場します。

一方で、自然と混沌を象徴する巨人のなかでも、どこか魅力的なのがヨルムンガンド──大蛇の姿をした巨人です。
この存在も、世界の海をとぐろを巻いて取り囲んでおり、秩序と対になる「境界」の象徴となっています。

巨人たちは、自然そのものの激しさと、それに逆らえない人間の無力さを思い出させてくれる存在とも言えますね。

知恵と境界の巨人たち──神々と交わり、世界をつなぐ者たち

幻術の種明かしをするウトガルザ・ロキ
幻術と知恵の支配者ウトガルザ・ロキが山に刻まれた三つの裂け目を示し、
トール一行が挑んだ試練のすべてが巧妙な幻術と知恵による偽りだったと明かす場面。
出典：『Thor and the Mountain』-Photo by John Charles Dollman／Wikimedia Commons Public domain

実は北欧神話に出てくる巨人たちは、すべてが敵というわけではありません。
なかには神々より知恵深く、優れた能力を持つ巨人も登場します。

その代表が、賢者ミーミルや、知略に長けたウトガルザ・ロキ、そして問答の名手ヴァファズルニルです。

ウトガルザ・ロキ──幻術と知恵の支配者

ウトガルザ・ロキは、神々でも恐れる幻術の達人であり、ヨトゥンヘイムの城を治める巨人。
ある時、トールとロキ、そして人間の従者たちが彼のもとを訪れますが、その旅路の中で彼らはさまざまな試練に挑戦させられます。

そのすべてが巧妙に仕組まれた幻であり、最後に正体を明かしたウトガルザ・ロキは、神々の力をもってしても超えられない真の強さを示しました。
彼の存在は、単なる力比べでは測れない、知恵の深さと神秘性を象徴しています。

ヴァファズルニル──問答で知を試す者

一方、ヴァファズルニルは洞窟に隠れ住む老いた知者の巨人で、オーディンすら一目置く存在。
『ヴァフスルーズニルの言葉（Vafþrúðnismál）』では、オーディン自らが彼を訪ね、世界の成り立ちや未来について問答を交わします。

神と巨人が対等に知識を競い合う場面は、北欧神話における知の価値と尊厳を強く印象づけます。

このように、巨人の中には単なる敵ではなく、神々と世界の“橋渡し”をするような役割を果たす者もいたのです。

彼らは神でも人でもない「中間の存在」として、物語に深みを加えてくれます。

神々が絶対の善で、巨人が絶対の悪──そんな単純な構図ではないのが、北欧神話の奥深さなんですね。
そこがまた、知れば知るほど面白くなっていくところなんです！