北欧神話の「9つの世界」とは

北欧神話の「9つの世界」とは

北欧神話の9つの世界は、世界樹ユグドラシルによって結びつけられた多層的な宇宙だ。アースガルズやヴァナヘイムなどの神々の世界は秩序と霊的原理を象徴し、ミズガルズや妖精の世界は人間や中間存在の生活の場として機能する。そしてヘルヘイムやニヴルヘイム、ムスペルヘイムの死と混沌の世界は、終焉と再生、原初の力を表す深淵の領域といえる。

世界樹ユグドラシルがつなぐ神話の宇宙北欧神話の「9つの世界」を知る

ユグドラシルに結ばれた9つの世界の概念図

ユグドラシルに結ばれた「9つの世界」の概念図
アース神族のアースガルズ、人間界ミズガルズ、巨人の国ヨトゥンヘイムなど、
世界樹ユグドラシルに結びつく九界の配置を模式化し、北欧神話の宇宙観を示す。

出典:『Nine Realms』-Photo by Et2brute/Wikimedia Commons CC0 1.0


 


北欧神話の舞台には、「9つの世界(ナイン・ワールズ)」と呼ばれる、不思議で壮大な空間が広がっています。


アース神族が暮らすアースガルズ、人間たちの住むミズガルズ、そして死者の国ヘルヘイムなど、それぞれに特徴ある世界が存在していて、「神話の宇宙って、こんなにも奥深いのか!」と驚かされます。


これらの世界は、巨大な木──世界樹ユグドラシル──によって結びつけられているとされ、場所ごとに意味や役割が異なるんです。


というわけで、この章では「北欧神話の9つの世界」について、神々と高次の存在の世界・人間と中間の存在の世界・死と混沌の世界──という3つのテーマに分けて、じっくり楽しく紹介していきます!



神々と高次の存在の世界──秩序と霊的原理の領域

アースガルズの城門へ戻る女神イズンの挿絵

アースガルズの城門へ戻る女神イズンの挿絵
若さの林檎を預かる女神イズンが、仲間の神々に守られながらアースガルズの城門へ戻ってくる場面で、高い城壁や塔が北欧神話の神々の都アースガルズの風景として描かれている。

出典:『Idun Brought Back to Asgard』-Photo by Lorenz Frolich/Wikimedia Commons Public domain


 


まず最初に紹介したいのは、神さまたちが住んでいる世界です。とくに重要なのがアースガルズヴァナヘイム


アースガルズはオーディンやトールといったアース神族の本拠地で、神々の居城「ヴァルハラ」もここにあります。空の上にあるような場所で、人間界からは虹の橋ビフレストを通ってつながっているとされています。


一方のヴァナヘイムには、豊穣の神フレイやフレイヤなど、自然や生産を司るヴァン神族が暮らしています。このふたつの神族は昔、大きな戦いをしましたが、最終的には和解し、互いに神を交換して平和を保ったんです。


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巨人の故郷ヨトゥンヘイムも高次の世界?

意外かもしれませんが、巨人族の住むヨトゥンヘイムもまた“高次の存在”の世界とされています。神々と対立する存在ではあるけれど、同時に、神々と血を分けた者も多く、オーディンの母やロキの出自もこの世界なんですよ。


こうした世界は、「秩序」や「霊的な原理」を象徴する場所であり、神話の中心的な舞台といえます


❄️神々と高次の存在の世界❄️
  • アースガルズ:アース神族の居住地であり、神々の都市。ビフレスト(虹の橋)によって人間界と結ばれ、秩序・戦・誓約・知の象徴的空間。オーディンの宮殿ヴァルハラや、フリッグのフンスケルスなどが存在する。
  • ヴァナヘイム:ヴァン神族の世界で、自然・豊穣・海・予言に関連する力が宿る。フレイ、フレイヤ、ニョルズなどがこの世界に由来し、調和と再生の象徴とされる。アース神族との和解後、両神族の交流が深まる。
  • ヨトゥンヘイム:巨人族(ヨトゥン)たちの世界で、神々にとっては常に脅威と誘惑の両面をもつ存在。原初的な力や自然の過酷さを体現し、アースガルズと対立しつつも、神々の血縁や起源とも深く関わっている。


人間と中間の存在の世界──生命と文明が営まれる場

ラグナロク前夜のミズガルズ上空を駆けるオーディンの挿絵

ラグナロク前夜のミズガルズに入るオーディンの挿絵
世界樹ユグドラシルのふもとに広がる人間界ミズガルズに、
八本脚の馬スレイプニルに乗ったオーディンが入る場面を描いた作品。

出典:『Odin Entering Midgard Before Ragnarok by Brindley』-Photo by John Angell James Brindley/Wikimedia Commons Public domain


 


つぎに、人間や妖精たちが暮らす「中間世界」を見ていきましょう。


真ん中にあるのがミズガルズ。これはまさに「人間界」で、神々によって創られた世界です。ミズガルズは、巨大な海蛇ヨルムンガンドに囲まれていて、神々と巨人の戦いのときには激戦地となる場所でもあります。


このミズガルズを守るため、オーディンたちは外敵を防ぐ防壁を築き、巨人族の侵入から人間を守ろうとしました。


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光の妖精と闇の妖精の世界

また、妖精の世界もあります。光の妖精が住むのがアルフヘイム。ここは美しく明るい世界で、神々と友好的な存在である光の妖精たちが暮らしています。


その反対に、闇の妖精やドワーフたちはスヴァルトアールヴヘイム(ニダヴェリール)に住んでいます。鍛冶の名手たちが集まり、ミョルニル(トールの武器)などの神々の道具もここで作られました。


人間と妖精たちは、神々と巨人のあいだに位置する“中間の存在”として、この世界で共に生きていたのです。


❄️人間と中間の存在の世界❄️
  • ミズガルズ:人間が住まう世界で、ユグドラシルの中段に位置する。周囲は大海に囲まれ、その外縁には巨人の脅威を防ぐ蛇ヨルムンガンドがとぐろを巻いている。神々・巨人・妖精の影響を受けながら、自律した運命を生きる場。
  • アルフヘイム:光の妖精(光のアルフ)が住むとされる麗しき世界。フレイに統治を委ねられており、美、調和、創造的霊性を象徴する。神々と人間の間を媒介する存在として、神秘的な役割を果たす。
  • スヴァルトアールヴヘイム:闇の妖精または小人(ドワーフ)が住む地下世界。鍛冶・工芸・魔術に長け、神々の神器(ミョルニル、グングニルなど)を製作したとされる。地中の力と密接に結びついた知と技巧の象徴。


死と混沌の世界──終焉と原初の力が宿る深淵の領域

冥界の女神ヘルと番犬ガルム

ヘルヘイムを支配する女神ヘル
死と混沌の世界を司る女神を表現。傍らにはヘルの門を見張る地獄犬ガルムが描かれる。

出典:『Hel by Karl Ehrenberg』-Photo by Carl Ehrenberg/Wikimedia Commons Public domain


 


最後に紹介するのは、ちょっと怖いけれどとても大切な、死や混沌の世界たちです。


まずはヘルヘイム。ここは死者の国で、病気や老衰で亡くなった人たちが行く場所。ロキの娘である女神ヘルがこの地を治めています。ヴァルハラのように戦士を迎える華やかさはなく、静かで冷たい印象がある世界です。


そしてもうひとつ、北欧神話の原点にあたるのがニヴルヘイム。ここには、霜と氷の力が集まっていて、まだ世界ができる前の混沌の時代、この地の氷とムスペルヘイムの火がぶつかりあって最初の巨人・ユミルが生まれました。


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ムスペルヘイム──炎と破壊の先にあるもの

そのムスペルヘイムは、火の巨人たちが住む灼熱の世界。炎の王スルトがいて、ラグナロクではこの世界から攻めてきて、世界を焼き尽くすとされています。


死と混沌の世界は、怖いだけではなく、「終わり」と「始まり」の力を象徴する、神話の根っこのような存在なんです


❄️死と混沌の世界❄️
  • ヘルヘイム:死者の国で、戦死者以外の魂が辿り着く世界。死の女神ヘルによって統治され、寒冷で暗く、悲哀と沈黙に満ちる。神々すら容易には介入できない、生と死の境界を象徴する領域。
  • ニヴルヘイム:霜と氷の支配する原初の世界で、命の泉フヴェルゲルミルが存在する。創世以前から存在し、死者の霊や冷たい混沌の力が漂う。ヘルヘイムと重なる部分もあるが、より深遠な原始性を持つ。
  • ムスペルヘイム:炎と破壊の世界で、炎の巨人スルトが支配する。原初において氷の世界ニヴルヘイムと対をなし、世界の創造を引き起こす熱源であると同時に、ラグナロクで世界を焼き尽くす終末の力でもある。


 


ということで、9つの世界はそれぞれが大切な役割を持っていて、北欧神話の魅力はここからも溢れています!


🌌オーディンの格言🌌

 

この世界は、ただ一つにあらず──枝分かれした九つの相が、互いに絡み合い、影響しあいながら在る。
世界樹ユグドラシルに連なるそれぞれの領域は、「命」「秩序」「終焉」のすべてを内包しておる。
死の冷たさも、神の光も、闇の技も──すべてが「大いなる循環」の中で役目を果たしておるのじゃ
ミズガルズに芽吹いた小さき命も、ムスペルヘイムの炎も、わしの片目が見てきたものよ。
九界は遠く離れておるように見えて、その根は一つ──すなわち「我らが物語」の根幹じゃ。
世界は広く、されど一体……旅せよ、そして見よ、この宇宙がいかに多彩であったかを。